肝細胞癌は世界の悪性新生物統計において死因第2位の予後不良の疾患であり,また近年食生活の欧米化により非アルコール性脂肪肝などメタボリック症候群に起因するnonBnonC型肝細胞癌も急増しており,肝細胞癌に対する新たな治療戦略の確立が求められている. 我々は腸内細菌叢により産生される短鎖脂肪酸と,その受容体で7回膜貫通型G蛋白の1つであるGPR41に注目し,すでにヒト肝細胞癌培養細胞(HepG2)において,cisplatinのアポトーシス誘導作用が,短鎖脂肪酸の1つであるプロピオン酸を共添加することで増強され,その機序にGPR41が関わっていることを報告している.またGPR41の主なリガンドである酪酸自体のアポトーシス作用について着目し,令和2年度HepG2細胞において酪酸ナトリウム0.5mM,1mM,2.5mMを添加し,ウェスタンブロット法でcleaved caspase3の発現を確認し,2.5mMで有意な発現上昇がみられ,酪酸単独添加においてもアポトーシス誘導作用がみられることを確認していた.さらに酪酸以外の短鎖脂肪酸である酢酸ナトリウム,プロピオン酸ナトリウムをそれぞれ同様の濃度で添加し,cleaved caspase3の発現を確認したところ酢酸ナトリウムでは有意差はみられなかったが,プロピオン酸ナトリウムでは0.5mMで発現上昇がみられた. HepG2細胞において酪酸によるアポトーシス誘導作用の分子機序を解明するため,MAPKinaseであるp38とJNKのリン酸化を検討した.p38のリン酸化は酪酸ナトリウム0.5mMで有意な上昇がみられ,pJNKのリン酸化も1.0mMで上昇し,アポトーシス誘導においてMAPKinase経路が関与する可能性が考えられた.
|