研究課題
PD-1 抗体で治療を行う肺がん患者計90 名から治療前後のタイミングで血液を採取し、血漿と免疫細胞を単離し、代謝産物とリンパ球マーカーの評価を行い、治療効果との相関を調べた。血中エネルギー代謝関連の代謝産物が低いことや血中腸内細菌関連代謝産物が高いことなどが、PD-1 抗体の治療効果と相関した。しかし1 つずつの代謝産物での予測率は最高でAUC 0.82(治療後の馬尿酸)と十分に高いとはいえなかったため、統計学的手法を用いて複数の測定項目の組み合わせによるバイオマーカーの確立を期した。その結果、治療前の馬尿酸(腸内細菌関連代謝産物)、PD-1 抗体治療後のシスチンとGSSG(レドックス関連代謝産物)、ブチリルカルニチン(ミトコンドリア関連代謝産物)を組みわせることでAUC 0.91 の予測率を達成できた。リンパ球マーカーに対しても、代謝産物と同様の解析を行った。投与前のPD-1high CD8+ T 細胞の割合(疲弊T細胞を反映)とCD8+T 細胞ミトコンドリア活性酸素種、治療前後のCD4+T 細胞の変化率とCD8+T 細胞のPGC-1(ミトコンドリアのキーレギュレーター) の変化率を組みわせることでAUC 0.96 と非常に高い予測率を達成できた。本研究内容は論文発表(Hatae et al. JCI insight 2020)と、第78 回日本癌学会や第23 回日本がん免疫学会総会、第17回日本臨床腫瘍学会学術集会で発表を行い、各種メディアでも取り上げられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、T細胞のエネルギー代謝状況や腸内細菌に注目することで、PD-1抗体の治療効果予測バイオマーカーの確立につなげることができた。
腸内細菌関連代謝産物や腸内細菌叢の構成がT細胞へ与える影響を調べることで、T細胞の免疫代謝と腸内細菌のクロストークのメカニズムを明らかにすることを目的とする。我々は、2019年度までにPD-1抗体治療を受けた肺がん患者30名からPD-1抗体投与前の糞便を採取し終えた。今後は糞便からゲノムDNAを抽出し、16S rRNA領域配列を用いた次世代シーケンサーによるメタゲノム解析にて腸内細菌叢の解析を行う予定である。同時に糞便中代謝産物も解析する計画である。腸内細菌叢と糞便中代謝産物の解析結果と、T細胞のエネルギー代謝状態、血中代謝産物、PD-1抗体の治療効果を比較検討する。さらに他の癌腫への応用も検討していく。
少額であるが、予定より実験に費用がかからなかったため。
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JCI Insight
巻: 5 ページ: e133501
10.1172/jci.insight.133501
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/documents/200130_1/01.pdf