尿路感染症の主要な原因菌である大腸菌に対する主要な治療薬、フルオロキノロンと第3世代セファロスポリンへの耐性率が急増している。しかし、これら耐性菌感染症の迅速診断法が存在しないため、初期の適切な治療薬選択が困難であり、有効な治療の遅れや死亡率の上昇を招いている。本研究の目的は、尿路感染症における薬剤耐性菌:第3世代セファロスポリン耐性菌(ESBL産生菌)を迅速・高精度・簡便・安価に検出する遺伝子検査法の開発と、その検査法の臨床的有用性評価である。本年度は、研究実施計画に従い、実際の臨床検体を用いた検査および分離菌株の全ゲノム解析を行い、検査精度を明らかにした。 2021年5月の時点で272検体の検査を終えた。培養法の結果、ESBL確認試験の対象となる菌種(PEK)が219検体(80%)、それ以外の腸内細菌目細菌が26検体、腸内細菌目以外のグラム陰性桿菌は27検体から検出があった。219検体から221株のPEKが分離され、うち48検体からの49株でESBL産生菌が陽性となった。これら221株の全ゲノム解析の結果、51株 (50検体) からESBL遺伝子が検出された。培養法と全ゲノム解析結果を基準とした場合、本検査法は、感度 96%、特異度 100%、PPV 100%、NPV 99%と高精度であった。本検査法により、ESBL産生菌による尿路感染症の予測が可能となり、薬剤耐性菌対策に貢献できる見込みである。
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