研究課題/領域番号 |
19K19429
|
研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
山口 崇幸 滋賀大学, データサイエンス教育研究センター, 助教 (90748964)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 肺がん / コンパートメントモデル / 最尤推定 / 口蹄疫 / 梅毒 |
研究実績の概要 |
肺がんの誘発因子である喫煙への暴露と人口学的な出生・加齢・死亡のプロセスを組み合わせた個体群動態モデルを男女別々に作り、将来の肺がん罹患者数や死亡者数の推定を行った。データについては、人口と死亡数は総務省統計局のウェブページから毎年の男女別年齢1歳階級のデータ、肺がんの罹患数や死亡数は国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」から毎年の男女別年齢1歳階級のデータ、喫煙率についてはJT全国喫煙者率調査の毎年の10歳年齢階級のデータを収集した。人口動態を表現するマッケンドリック方程式を基にした偏微分方程式を使い、コンパートメントによって喫煙状態を表し、モデルを作成した。人口、死亡数、肺がん罹患数、肺がん死亡数はポアソン分布、喫煙率は二項分布にしたがうとし、最尤推定によりパラメータを推定し、モデルをデータに適合させ、最も新しい年のパラメータ値を使うことで、肺がん罹患数や死亡数の予測を行った。人口動態を捉えることができるモデルによる肺がんの死亡数と罹患数に関する予測は、急速な高齢化が予想されている日本において必要とされていると考えている。 また、コンパートメントモデルを用いた推定手法を口蹄疫のモデルや梅毒のモデルに応用した。口蹄疫のモデルでは、屠殺開始の時期について検討し、屠殺開始がある閾値を越えて遅くなると感染の拡大を止められないということを示した。梅毒のモデルでは、梅毒の自然死を考慮したコンパートメントを使って罹患数と報告数を推定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マッケンドリック方程式を基にした喫煙状態を考慮した肺がんのコンパートメントモデルに、副流煙の効果を加えることを検討した。喫煙者の割合に応じて肺がん罹患リスクが高くなるという、これまでのモデルを単純に拡張したモデルでは、データへの適合がうまくいかないため断念した。喫煙者の夫と非喫煙者の妻の場合に、副流煙の影響で妻の肺がんリスクが高くなるという疫学研究があるので、そのような状況を考慮したモデルにおいて副流煙の効果を扱うことにした。モデルとしては人口学で使われているペア形成モデルを基にし、喫煙者と非喫煙者のペアに対して副流煙の効果を入れる予定である。ペア形成モデルについての文献の調査を行い、ペア形成モデルの推定に必要なデータとして毎年の男性と女性の結婚の年齢分布を取得し、CSVの形に整理した。
|
今後の研究の推進方策 |
副流煙を考慮した肺がんの罹患数、死亡数のモデルでは、どのような年齢分布の男女が結婚するかという情報から結婚関数を推定する必要がある。まず、結婚関数の推定を行い、日本の人口動態をうまく捉えられるモデルの作成を行う。婚姻を考慮したこのようなモデルが完成したら、喫煙状態を加え、非喫煙者への副流煙の効果を扱ったモデルを作成し、パラメータの推定を行う。副流煙の影響をモデルにより、検討した後は、HPVによる子宮頸がんやピロリ菌による胃がんなどについても、モデルの適用を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、3月に参加を予定した学会がいくつか中止になり、旅費の支出が減った。また、副流煙を考慮した肺がんの罹患数、死亡数のモデルについて、当初、検討していなかったモデルを考慮する必要があったことや、研究ががん以外のコンパートメントモデルを利用した推定の研究に広がったことにより、多くのデータを利用した解析で必要となる計算機の購入まで進まなかったためである。 使用計画としては、新型コロナウイルスの状況によるが、学会が開催されれば発表や情報収集のために参加する。また、研究の進捗状況に合わせて、計算機の購入を行う。
|