本研究の目的は,嚥下障害を抱える脳血管障害患者の摂食嚥下リハビリテーション(摂食嚥下リハビリ)に関する体験とその看護支援を説明するための状況特定理論(Situation-Specific Theory:SST)を構築することである。 2023年度の主な取り組みとしては,嚥下障害を有する脳血管障害患者を受け入れている回復期病院に従事している看護実践者がどのような看護実践を行っているのかについて探求した半構造化インタビュー調査(2022年度実施)の研究知見に関する論文化を進めた(論文投稿中)。インタビュー調査によって得られた知見は,これまで検討してきた,『嚥下障害を有する脳血管障害患者の移行体験の概念モデル』の研究知見と関連させながら概念モデル全体の主要テーマや要素の検討を図った。特に,対象者の移行体験の特徴を体系化するための取り組みを行った。脳血管障害患者の移行体験の特徴としては,≪慣れ親しんだ身体との断絶≫≪コントロール不能な身体への気づき≫≪経鼻胃管を余儀なくされる苦痛≫≪回復が見通せない嚥下リハビリ≫≪食べることが苦痛に変わる≫≪食べる方略を模索し見いだす≫等といった主要テーマを提示した。移行に影響を与える具体的要素については,個人的やコミュニティ,社会の3つの観点から探索し提示した。嚥下障害を抱える脳血管障害患者の健康的な移行の評価指標として,【食べることへの恐怖心が和らぐ】【食べることによる安心感や幸福感】【人とのつながりと相互作用】等といった主要テーマを提示した。これらは,対象者の移行状況を心理社会的な側面を評価する際に考慮すべき視点であると示された。 本研究で得られた知見は,研究者が並行して取り組んでいる,『脳卒中領域における摂食嚥下ケアに関する状況特定理論構築と評価指標の開発(22K10760)』の研究知見とのつながりについても検討し,SST構築の精錬を図った。
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