研究実績の概要 |
本研究の目的は以下の3点を明らかにすることである。1. 健常野球選手の「肩甲骨関節窩傾斜角」と「肩関節外転外旋位における腱板筋群の作用方向」に関係があるか。2. 投球障害肩の既往の有無により、「関節窩傾斜角」及び「外転外旋位における腱板筋群の作用方向」に違いがあるか。 3. 「関節窩傾斜角」が、 投球障害肩の新たな発症、再発のリスク因子となるかどうか。 2019年度は、目的1. 2.を検証するデータの収集に必要な環境整備・被験者調整を行い、16名の野球選手のMRI撮影を実施した。2020年度以降に50名程度の野球選手のMRI撮影を実施予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で医療機関のMRI機器の使用が困難な状況となり、2020,2021, 2022, 2023年度で1名もMRI撮影を実施することができなかった。 そのため、研究期間内に「肩関節外転外旋位」でのMRI撮影を統計解析に必要なデータ数まで実施することができなかった。 すでに撮影済みのMRIデータを用い、本研究で用いる肩甲骨骨形態の計測方法の妥当性を検証する解析を進め、国内学会の発表を行った。(2021年度) 加えて、投球障害肩の既往の有無により肩甲骨の骨形態に違いがあるかを検討し、国内学会での発表を行なった。(2022年度)具体的には、野球選手38名(投球障害肩の既往有り群19名, 既往無し群19名)の投球側、およびオーバーヘッドスポーツの経験が無いコントロール群30名の利き手側のGlenoid version(関節窩傾斜角)、inclination、anterior torsionを比較した報告となる。結果として、既往歴が無い野球選手の肩甲骨関節窩は既往歴が有る野球選手やコントロール群と比較し、retroversionおよびanterior torsionが大きい傾向が認められた。この結果より、「大きな関節窩後傾」や「大きな関節窩前捻」は投球動作で生じる肩関節への力学的ストレスを減少させる適応の一つであると考察している。
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