本研究の目的は,歩行遊脚肢を無意識的に挙上させることでつまずきによる転倒を回避する ‘non-MTC’gait cycles (nMTC)の出現頻度と転倒発生の関連性を検討することであった.60歳以上の地域在住高齢者114人が研究に参加した.歩行遊脚肢のつま先の軌跡においてtroughを認めないnMTCの頻度を3次元動作解析装置にて計測した.歩行のみの条件(ST)に加え,歩行に認知課題を付加した二重課題(DT)として,発語課題,引算課題,想起課題の4条件を設定した.また,歩行中の前頭部の血流変化をNIRSにて計測した.1周26mの平坦な歩行路を裸足で3分間,被験者は快適速度で歩いた.地域在住高齢者20人と大学生20人の計測結果をtwo-way ANOVAにて比較した結果,①3分間歩行距離(3MWD)は世代(高齢者・大学生)の影響は受けなかったが課題の影響を受けた,②nMTC頻度は課題の影響は受けなかったが世代の影響を受けた,③前頭部の脳血流の変化量は左右ともに世代,課題の双方に影響を受けた.多重比較検定の結果,3MWDはSTと比べて引算課題,想起課題で有意に短縮し,前頭部の血流変化は引算課題,想起課題で有意に上昇した.高齢者と大学生の比較では,前頭部の血流変化は,高齢者では左右ともに引算課題,想起課題で大学生よりも有意に高値を示した.一方,nMTCの頻度は世代間に差は認められなかったが,STとDTの差(DTcost)では引算課題と想起課題において高齢者は大学生よりも高値を示した.ただし,前頭部の脳血流の変化量の結果については区間平均値を扱っており,band pass処理を行って再度検討を行う予定である.また,計測から1年間の追跡調査の結果,参加者の転倒事象は29回であった.今後,nMTC頻度のDTcostと転倒事象の有無の関連性について検討していく.
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