研究期間最終年度は、公立中学校と地域スポーツクラブの接点にもなりうる、運動部活動の地域移行政策に着目して、部活動と地域スポーツクラブという2つの活動の関係性の中で生じる「学習」の在り方を考察することに主眼を置いた。結果的に、本研究が着目した「学習転移」という枠組みもさることながら、ある文脈において生じ得る活動が、その限界や葛藤を契機として、別の活動に拡張していく、「拡張的学習論」の理論枠組みの有効性が明らかになった。なお本研究の目的は、公立中学校、地域スポーツクラブ、中央競技団体という公共的な体育・スポーツ組織を対象として、経営管理者のキャリア・トランジションの実態を把握し、スポーツ実践者・指導者の経験と学びが、経営管理者としての経験と学びにいかに転移するかを解明することであった。研究期間全体を通じて、1)キャリア・トランジションにおける学習転移は、「職務」や「能力」の汎用性の問題のみならず、その過程で生じるアイデンティティの(再)体制化といった、自己認識の形成や変容を伴うこと、2)したがってその様相を明らかにするためには、個人の能力のみならず実践と学習が生じている文脈に着目する必要があること、3)具体的には学校やクラブなどの組織がどのような状況にあるかによって学習の状況が左右されること、4)学習転移が単なる能力の転移だけでなく、組織やその環境(地域など)に対する愛着にも左右されること、5)そのため、学習転移は人と人、組織と組織のつながりを視野に入れた学習の中で生じる可能性があることが明らかになった。
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