研究課題/領域番号 |
19K20180
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高木 博史 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (10792004)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 肥満症 / メタボリック症候群 |
研究実績の概要 |
本研究は、食塩過剰摂取が内臓脂肪蓄積を促進し、臓器障害や代謝障害を進展させるという仮説を検証し、その機序を解明することを目的としている。 C57/BL6雄マウスに対し、高脂肪食あるいは、高脂肪食に食塩濃度を2%、4%となるように調合した高脂肪+高塩分食を給餌し、両群を比較した。高脂肪食+高塩分食(食塩濃度2%)の群では、20~22週で高脂肪食群との体重差が消失したが、精巣周囲脂肪量が有意に多く、腹部CTでも内臓脂肪量の増加を認めた。高脂肪+高塩分食(食塩濃度4%)の群では、高脂肪食群と比較して体重が有意に低いにも関わらず、精巣周囲脂肪量は有意に多かった。一方で、普通食と普通食+高塩分食(食塩濃度4%)を比較した場合は、両者に体重と精巣周囲脂肪量の差は認められなかった。以上の検討により、高脂肪食に食塩過剰摂取が伴うと、精巣周囲脂肪に代表される内臓脂肪蓄積が促進する可能性が示唆された。精巣周囲脂肪における炎症性サイトカイン発現を比較したところ、高脂肪食と高脂肪食+高塩分食群において、単位当たりの発現量に有意な差を認めなかった。他臓器への影響を検討した結果、高脂肪+高塩分食群においては、肝重量は有意に低く、脂肪滴含有量が有意に低下していた。さらに興味深いことに高脂肪+高塩分食群においては、高脂肪食群と比較して耐糖能が悪化し、インスリン分泌不全を認め、膵島の数と面積が有意に低下していた。この結果から、高脂肪食によって誘導される膵島の増殖が食塩過剰摂取によって抑制されている可能性が示唆された。 今後は、これらの病態形成に関わる因子を同定するとともに、食塩摂取制限の有用性を明らかにし、食塩摂取量の適正化による栄養指導や新しい概念の薬物療法に繋げ、メタボリック症候群に対する有効な治療法の確立を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高脂肪食で肥満を呈しやすく、食塩負荷で高血圧を呈しにくいとされるC57/BL6雄マウスを用い、①普通食、②普通食+高塩分食、③高脂肪食、④高脂肪+高塩分食に分け、体重変化、摂餌量を比較した。その結果、高脂肪+高塩分食群においては、高脂肪食群と比較して体重増加が抑制されるにも関わらず内臓脂肪量が増加する結果を得た。代謝ケージを用いて、酸素消費量、エネルギー消費量、活動量を比較する方針であったが、代謝ケージの故障により計画通り検討を進めることが困難であった。内臓脂肪、皮下脂肪、褐色脂肪組織における遺伝子発現を検討し、4群における脂肪組織での遺伝子発現の差異を解析した。また、高脂肪+高塩分食群では、高脂肪食群と比較して、肝重量が低下し、脂肪滴も減少していた。膵においては、膵島の数、面積が有意に低下していた。これらの解析から、高脂肪+高塩分食による諸臓器への影響をさらに検討することができると考える。普通食群と普通食+高塩分食群の比較においては、両群の体重、精巣周囲脂肪量などに有意差は認めなかった。高脂肪食+高塩分食で観察された病態の形成機序の解析、治療法の探索については今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により、高脂肪食に食塩過剰摂取が伴うことによって、内臓脂肪の蓄積の促進、インスリン分泌不全による耐糖能の悪化、膵島の数、面積の低下といった病態形成作用が示唆された。一方で、肝重量、肝脂肪滴の解析からは脂肪肝への進展は抑制されており、食塩過剰摂取による悪影響は臓器によって異なることが示唆された。今後はこのような病態を形成する機序を明らかにしたい。そのために、営巣周囲脂肪の組織学的、免疫学的解析を詳細に行いたい。また諸臓器への影響は多面的であることから、免疫応答や自立神経系による調整の関与を視野に入れて解析を進めたいと考えている。また、食塩摂取量が増加すると体重増加は抑制されることが示された。この機序としてエネルギー消費の増大やエネルギー吸収の抑制といった観点で解析を進める。さらに、治療法の確立を視野に入れ、減塩による諸臓器への影響を評価し、既存の薬剤を用いて、内臓脂肪量増加、耐糖能悪化を抑制するための治療法の探索を進める。
|