鉱山跡地では、その地域の植生を回復するために緑化が求められる。また、長期的な観点から、草本による緑化の後に樹木の侵入・定着が必要となる。調査地とした鉱山跡地では遷移初期草本であるススキと共に、アカマツ実生の侵入が確認された。ススキの株の内側ではアカマツ実生が正常に生育していた一方、外側では葉の褐変などが確認され、環境ストレスを受けていると考えられた。そこで、調査地ではススキがアカマツ実生の生残・定着に寄与していると仮定した。本研究の目的は、鉱山跡地においてススキがアカマツ実生の初期定着を促進する機構を解明することとした。調査地におけるアカマツ実生は根に高濃度のFeを蓄積していた。そこでFe解毒物質としてフェノール性化合物の分析を行ったところ、カテキンや縮合型タンニンが確認された。しかし、ススキの内外における濃度に有意差は確認されなかった。植物の環境ストレス耐性には根に感染している内生菌が寄与することが知られている。そこで、ススキの内外に生育するアカマツ実生の根から内生菌を分離した。その結果、内外共に、Aquapteridospora spp.およびCeratobasidium bicorneが分離された。Aquapteridospora spp.は内生菌としての報告がないが、黒色の菌糸をもつ内生菌の一種と考えられ、アカマツ実生のFe耐性に寄与している可能性が示唆された。また、Aquapteridospora spp.はススキからも分離されたことから、ススキが接種源となり、内生菌の感染を促進していると考えられた。Ceratobasidium bicorneは内生菌として機能する一方、アカマツ実生が弱ると病原性を示す。そのため、ススキはアカマツ実生に対する環境ストレスを緩和することで、C. bicorneの病原性の発現を抑制し、アカマツ実生の定着に寄与していると考えられた。
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