本研究では、イスラーム化以降に比定される「ペルシア」美術品が当時の国内の学界においてどのように解釈され、近代日本画家・洋画家・工芸家の創作活動にどのような影響を及ぼしたのかについて、作家たち自身の収集した作例やそれらを題材とした作品とその評価に加え、彼ら自身の発言や、彼らの交友・師弟関係を網羅的に検証し明らかにすることを目指した。この目標の達成のため、2019年度は、山口蓬春記念館および出光美術館等において作品の実見調査を行なったほか、横浜美術館美術教育センターにて、比較的入手が困難な、国内のデパートや画廊等における展覧会のカタログの閲覧をおこなったほか、研究対象とした日本画家の全作品集や日記、随筆等の網羅的な調査をおこなった。その結果、1950年代後半から1970年代後半にかけて、彼ら作家たちに加え、古美術商、学者の三者が協調して、日本と文化的な紐帯を有する「ペルシア」なる独自の概念を生み出していたこと、イスラーム美術工芸品の中でも、このイメージに合致する特定のタイプの作品が、特に好んで収集され、作家の創作のインスピレーション源となっていたことが始めて明らかになった。本研究の独創性は、オリエンタリズム研究という文脈からも、イスラーム美術工芸品の収集史研究という文脈からも、近代日本におけるアジア憧憬研究という文脈からも研究の対象とされてこなかった近代日本におけるイスラーム美術工芸品収集の思想的背景と傾向について、明らかにした点にある。
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