研究課題/領域番号 |
19K20789
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大神 雄一郎 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 助教 (80826339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 状態・性質の「XはYをしている」 / 主体化 / 構文 / 英語所有表現 |
研究実績の概要 |
動詞「スル」を用いて事物の状態・性質に関する意味を表す「XはYをしている」という形式の日本語の構文を対象に、その成立背景について解明することを目標に研究を進めた。2019年度の取り組みは、大きく、当該構文の言語的実態に関する調査と分析、理論的観点からの考察、対応する英語表現に目を向けての検討、の3つに分けられる。 言語的実態の調査と分析に関しては、実例の収集、文法的ふるまいの分析、日本語母語話者による例文の評価テスト、という取り組みを軸に、問題となる言語表現の特徴について見通しを深めることを試みた。実例収集に関しては、WEB検索やコーパスデータの参照を通じ、考察対象とする構文の表現の実例を広く集め、従来の研究においては注目を集めてこなかったタイプの多くの例文が得られた。文法的ふるまいの分析においては、当該構文の成立を可能とする名詞句や修飾要素のタイプについて分析を進め、その表現が適切に成り立つために必要となる条件について検討を行った。また、これによって得られた見通しの妥当性について、母語話者の言語感覚を参照しつつ確認するため、被験者の協力を得ての例文評価テストを行っている。 理論的観点からの検討としては、認知言語学の分野で意味変化の説明として提案される考え方(主体化)、構文文法における言語観、英語の中間構文の研究において示される視点を取り込み、問題となる言語表現の特徴について考察を行った。 対応する英語表現に目を向けての検討については、当該表現の言語的性質について見通しを深めながら、さらに妥当性および有用性の高い分析へとつなげられるよう、検討を続けているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語的実態の調査と分析については、先行研究においては十分な分析がなされていないタイプの表現の実例を広く収集し、生起する名詞句や修飾要素などに注目してその文法的ふるまいについて分析を行いながら、被験者調査を行うことで話者ごとの容認度の違いなども考慮しつつ、問題となる構文の特徴と成立条件について見通しを深めてきた。これをもとに、理論的観点からの考察、英語の対応表現に目を向けての考察に関しても、それぞれ取り組みを進めてきている。 ここまでの取り組みの成果については、研究論文および研究発表として公開を進めており、採択通知を得て発表が予定されている研究発表、査読中の研究論文を含め、着実な進捗が得られているといえる。2019年度後半以降は、コロナウイルスの影響により、予定していた活動の実行や成果発表の一部に遅れが生じているが、これらについては本年度以降の取り組みを通じてリカバリーすることが見通されている。 英語の関連表現に関する分析と考察については、研究を進める中で、より大きな観点からの取り組みが有用であると考えるに至り、部分的に計画の見直しが必要となった。しかしながら、これに向けて重要となる言語的実態の調査と分析に関しては当初の見込みよりも大きな成果が得られており、これをもとに今後の研究の発展が見込まれる状態である。こうしたことをふまえ、総合的に見て当初の研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の将来的な展望として、動詞「する」を用いた多様な表現に視野を広げ、より大きな観点から「する」の実態と特徴について明らかにすることが挙げられる。具体的な研究内容として、ひとつには「味がする」や「頭痛がする」のように知覚や感覚について述べる「する」の表現、「舌がピリピリする」や「頭がキンキンする」のようにオノマトペ+「する」の形式をとる表現など、ある人物(生物)が何らかの具体的な活動を行う、というのとは異なる意味で用いられる「する」の表現に目を向け、研究を展開することが見通される。もうひとつには、上記のような様々な表現に関し、英語の対応表現(特に"have"による所有表現)との対照、また、日本語の「なる」や「ある」などの動詞による関連表現との比較を行い、これを通じて日本語における「する」の働きと特徴について、多角的に見通しを深めていくことが挙げられる。 上記のような展開を念頭に、今後は日本語学、英語学、語用論、認知言語学といった様々な分野の観点を取り込みながら、考察対象である状態・性質の「XはYをしている」構文の実態と特徴について多角的に理解を深めつつ、国内外においての研究成果の発表に力を入れることが重要であると考えている。現在までに得られたデータと分析結果に基づき、問題となる表現の成り立ちに関する包括的な説明を提案できるよう、特に理論的観点からの検討を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響により、国際学会への参加に係る出張が延期となったため。繰り越される研究費については、延期となった学会が2020年度内に開催される場合はその渡航費に充て、これが開催されなかった場合には英語論文の校正費用および研究発展のための書籍購入費に充てる予定である。
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