研究課題/領域番号 |
19K20789
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大神 雄一郎 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 助教 (80826339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動詞「する」 / 状態・性質 / 「XはYをしている」形式 / 認知的要因 / 成立メカニズム |
研究実績の概要 |
2020年度には、コロナウイルス蔓延の影響に伴い、口頭発表を予定していた国際学会が延期となるなど、計画していた活動の一部を延期せざるを得ない状況であった。そうした中で、前年度に行った実例収集および被験者調査の結果を活用しながら、研究対象とする状態・性質の「する」構文の言語的実態と特質について、分析と考察を進めた。 ここまでに得られた成果として、研究対象である「XはYをしている」型の日本語表現に関し、言語事実を重視しての分析と考察を通じ、その成り立ちについて認知言語学的観点からの見通しを得た。この成果については、日本認知言語学会が発行する査読付学術雑誌『認知言語学研究』での研究論文の採択が得られ、2021年度内に公開が予定されている(現在編集中)。これを通じ、問題とする日本語表現の言語的実態と成り立ちについて、認知に注目する立場から理解を深めることができたと考えられる。合わせて、この成果は日本語研究の分野における動詞「する」についての理解の深化にも貢献するものと思われる。 上記の成果に合わせ、当該年度には、研究対象とする表現の多様な広がりに注目し、その様々な事例の収集と分析を推進した。これによって得られた成果として、従来の関連研究では問題となる表現において成立しないとされてきた、無生物の部分に言及する表現の事例を豊富に集め、その成立にメタファー的な認知が関わっているという見通しを得た。また、問題となる表現と強い関連性を有する、「この花はいいにおいがする」や「この楽器はきれいな音がする」のような「XはYがする」形式の表現にも視野を広げ、動詞「する」による表現の意味的拡がりについて検討を進めるにあたり重要な視点を得た。 当該年度に得た知見に関しては、前述の通りコロナウイルスの影響により、その成果の公表に遅れがあるものの、着実に研究の進捗が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要報告においても記した通り、本研究はコロナウイルス蔓延の影響により、その計画にいくらかの遅れが生じている。具体的な状況として、当該年度内には2つの国際学会において、研究対象とする表現の特徴と成り立ちに関し、それぞれ口頭発表を予定していたが、そのいずれもがパンデミックの状況を受けて延期となっており、その結果、当初に予定していた理論的考察においての成果発表が未完了となっている。 上記のような状況が認められるものの、研究の進め方に見直しを加え、当該年度には問題となる表現の特徴と成り立ちについての考察を進め、その成果は査読付学術雑誌への掲載が決定している。また、今後の取り組みにおいては、さらに視野を広げながら分析と考察を進めるべく、言語事実の見極めを進めながら、意義ある理論的考察の方向性についても具体的な見通しが得られている。 以上の進捗状況をふまえると、パンデミックの影響が解消された後には、当初より見込んでいた成果を予定通り、あるいはそれを超えた水準で達成し、本研究の目標を果たすことが想定される。こうしたことから、本研究は順調に進んでいるものと考えられる。2021年度には、延期となっていた国際学会での口頭発表が予定されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの取り組みと得られた結果をもとに、今後においては、まずは国内外の学会および研究会等において積極的に口頭発表を行うこと、また、関連する学術誌に研究論文を投稿することを通じ、研究成果の公開に力を入れる。このことにより、多様な分野の研究者から意見を得ることで、さらなる研究の深化が期待される。 上記に加え、ここまでに収集した貴重な言語データの分析を進めつつ、認知言語学、日本語学、言語類型論的な観点から考察を行っていく。特に、問題となる表現におけるメタファー的認知の影響や、当該表現の成立に関わる知覚システムについての考察に力を入れて取り組むことを予定している。これを通じては、研究対象とする表現の実態と特徴について認知の観点から理解を深めたうえで、動詞「する」の機能と性質について掘り下げた知見を得ること、また、異言語における関連表現との対照にも視野を広げつつ、日本語における動詞「する」の地位について詳細な見通しを得ることが期待される。 イメージメタファー、オノマトペ、日本語における主題の在り方、といった問題に目を向けながら、引き続き言語事実を重視する立場から研究を進めたい。今後の予定として、2021年度には、国際構文文法学会および文化言語学会国際大会という2つの国際学会、現代日本語学および認知・機能言語学に関する2つの有力な研究会において研究発表を行うことが予定されている。これらにおいて多くの研究者から意見を得つつ、さらに研究を発展させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス蔓延の影響により、当初予定していた国際学会への参加がなくなったため。
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