本課題においては、動詞「スル」を用いて事物の性質や状態について表す「XはYをしている」という形式の日本語構文を対象に、その成立背景について解明することを目標に研究を行った。研究期間全体を通じての成果として、当該構文の言語的実態に関する調査を進め、従来は注目されてこなかった表現の実例に関するデータを豊富に収集することができた。特に重要な調査結果として、従来の研究においては成立しないとされてきた、「XはYをしている」形式のY項に①「無生物の構成部分に関する名詞句を置く表現」および②「複合名詞を置く表現」の実例を数多く収集し、その実態に関する理解が深められた。ここにおいては、日本語母語話者による例文の評価テストを行うなど、言語事実を重視する立場をとっている。こうした発見をもとに、最終年度には、当該の構文の成り立ちについて解明を目指す取り組みとして、言語主体の認知の働きに注目しての理論的な考察に力を入れた。具体的な成果として、上記の①および②のそれぞれの表現の成立にイメージ・メタファーが強く関与しているという見通しを得て、これについて国内外の学会および研究会にて口頭発表を行った。これらを通じ、関連する分野の研究者らから多くの有益な意見を得ることができ、さらなる展望を獲得することができた。なお、本課題において遂行を予定していた英語の対応表現に関する研究については、成果の発表を予定していた学会への参加を見送ることとなり、予定が未完了となっている。ただし、これについては2023年9月に開催される国際学会での口頭発表を計画し、すでにその準備を進めている。
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