研究課題
本研究は現代中国の女性作家の茹志鵑(1925-98)、王安憶(1954-)、茹志鵑の夫で英領マラヤ(現シンガポール)出身の文学者王嘯平(1919-2003)という現代中国の歴史に翻弄されながら生きた文芸一家のテクストを対象に、現代の中国の社会と文化を考察することを目的とする。本研究の目的のひとつは、3作家の1940年代から2000年代にかけてのテクストを、国家、歴史、生活の価値観をめぐる対話と応答の記録と見なし、それを双方向的に読むことで、文芸一家の視点から王嘯平文学を位置づけることにあった。そのうえで、本研究は王嘯平の「馬華文学(マレーシア華人文学・広義のシンガポール華人文学を含む)」における現代的位置づけを検討しようとした。本研究は、主に前者において成果を挙げた。2019年、日本中国当代文学研究会主催の国際シンポジウム「莫言研究日中研究者東京シンポジウム」において、筆者は「文芸之家中的王嘯平‐‐従王安憶和茹志鵑的角度出発」と題した報告を行った。また当該報告の成果「南洋華僑の家人――茹志鵑、王安憶から見た王嘯平」は、『夜の華 中国モダニズム研究会論集』に掲載され2021年に刊行された。当該論文は現在、中国語に翻訳の上、マレーシアで出版される研究書に掲載が予定されている。さらに『中国が描く日本との戦争(仮題)』(未刊)に、王嘯平のエッセイ並びにそれにまつわる王安憶のエッセイを寄稿した。本書によって、英領マラヤ(シンガポール)と中華人民共和国という二地を越境しながら生きた王嘯平をより広く世に問うことができるだろう。一方、王嘯平の「馬華文学」における位置づけの方は、コロナ禍で現地にほとんど訪問できなかったことも影響し、十分に進展しなかった。しかし引き続き王嘯平ならびに同世代のマラヤの文学者の足跡について検討を続ける所存である。
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