これまでにアフリカ(経済)史研究者はアフリカ人のエージェンシーを究明する一方で、グローバル(経済)史の文献では、そのような知見が充分に取り込まれることなく、20世紀後半以来の従属論や世界システム論的解釈に基づいて、16世紀以後のアフリカをヨーロッパ資本主義の「受動的な犠牲者」として位置付ける傾向がみられた。
本研究では、18-19世紀の西アフリカにおけるインド綿布需要に代表される、サハラ以南アフリカ(Africa South of the Sahara)と南アジア(South Asia)の経済関係史(south-south economic history)を世界経済史解釈の新機軸として打ち出した。この視点は、(1) 18世紀にピークを迎えた大西洋奴隷貿易とそれに支えられた大西洋奴隷制経済について、従来の「三角貿易」パラダイムではなく、南アジアを含めたグローバルな枠組みのなかで捉え直す必要があること、(2) 世界経済史上の最も重要な出来事の一つであるイギリス産業革命の展開を可能にしたグローバルな条件、さらに(3) 18-19世紀の近代世界経済興隆のプロセスにおける西アフリカの消費者と一次産品、南アジアの綿布生産の役割などを明らかにしてくれる。
こうした知見は、2019年にパルグレイヴ・マクミラン社のケンブリッジ帝国ポストコロニアル研究叢書の1冊として刊行した英文単著のなかで論じている。そのエッセンスについては、京都大学の史的分析セミナーやウォーリック大学でのワークショップを通じて口頭発表を行った。また、19世紀の西アフリカの一次産品生産と輸出については、パームオイルをケーススタディとした単著論文を『社会経済史学』から発表している。
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