本研究の最終年度となった2023年度は、実施ができていなかったインタビュー調査を実施し、本研究を通じて得られたデータの分析を行うことに注力をした。具体的には、山形県への避難者を対象として、震災発生から12年目に至るまでの避難生活に関してインタビューを行った。分析においては、これまでに収集したインタビューデータおよび証言記録等を活用し、原発事故避難者の意識構造・アイデンティティである「避難者」「故郷喪失者」「一時滞在者」「新住民」という4象限が、避難先地域とのどういった関わり状況において表出するのか、その地域差はあるのか、さらにそれが受け入れ先の住民にどのようなアイデンティティを付与するのかといった点に関して概念の精緻化を行った。その成果は国際学会等で発表した。 研究期間全体を通じては、途中に筆者の妊娠・出産、そして新型コロナウイルス感染拡大による調査研究の中断が重なり、当初の予定より長期に渡る研究となった。その間、自分自身の研究環境の変化に加えて、調査対象としていた避難者の方々の状況の変化などもあり、予定していたインタビュー調査ができないこともあったが、調査資料の収集や過去のデータの活用によってその部分を補うことができた。また、研究期間が長期化したことにより、避難者が持つ意識構造の長期的な経年変化についても考察を深めることができたのは、予想していなかった成果である。本研究を通して明らかとなったのは、災害によって被災者には新しく複層的なアイデンティティおよびそれに伴う意識構造が生まれ、それらがアンビバレントに並存しながら避難先地域や住民との関係のなかで状況に応じて表出しており、避難者自身の中でも、また周囲ともさまざまな葛藤を繰り返しながら生きていく避難者の生活世界であると考えている。その成果は国内外の学会等で発表を行った。
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