最終年度は、当初の研究課題に対して得られた諸知見を統合することを到達目標に据えて、①ひとり親の就労と所得・時間的貧困の関連、②ひとり親世帯の増大が世代間の格差・不平等の拡大に寄与しうるかについて計量的分析を行った。 第1の分析では、就労行動がシングルマザーの健康水準に及ぼす影響について傾向スコア・マッチング法をもとに検討した。「国民生活基礎調査」の世帯票・健康票を用いた分析からは、無業者や非正規雇用者に比べて有業・正規雇用のシングルマザーはメンタルヘルス(主観的健康・ディストレス)が良好である傾向が認められ、有配偶の母親よりも就労効果が大きかった。その一方、有業・正規雇用のシングルマザーは生活時間に関わるストレス因子がそれ以外の群よりも高い傾向も示された。先行研究が指摘する就労をめぐる所得/時間的貧困のトレード・オフの関係が健康水準についてもあてはまることが明らかとなった。 第2の分析では、両親の離死別経験と子どもの教育達成について階層再生産の観点から再検討した。具体的には、家族形成の階層差を通じて出身階層間の機会の不平等が拡大することを指摘するdiverging destinies命題(DD命題)を日本の社会調査データをもとに検証した。分析結果からは、親との離別を経験した子どもは非経験群に比べて教育達成水準が低い傾向にあった。その一方で、離別経験が子どもの教育達成に及ぼす負の影響は、出身階層(母学歴)が高い子どもほど大きかった。要因分解法の結果からは、DD命題が指摘するように低階層を中心とするひとり親世帯出身者の増大は学歴再生産の強化に寄与するが、先に述べた離別効果の階層差によってその影響が相殺されていた。これらの結果は、DD命題は経験的に支持されず、階層研究が繰り返し指摘する機会の不平等の時代的安定性が人口/家族変動要因を考慮しても極めて頑健であることを示唆している。
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