放射線は酸化ストレス因子として知られ,被ばくは癌などの原因となる。他方で,オーストリアや鳥取県三朝町では,かつてより自然放射線を利活用したラドン療法が行われている。このような相反する放射線影響については,まだ明らかになっていないことが多く,専門家の間でも議論が続いており,低線量放射線の生物学的真実を定式化する必要性が高まっている。そこで,本申請課題では品質工学の概念を取り入れた新規放射線リスク評価法の有用性について検討する。 平成31年度は,8週齢・オス・BALB/cマウスに炎症を起こさせるため,リポ多糖(LPS)25μgを腹腔内へ投与し,48時間後に炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)を測定したが,変化はなかった。ただし,LPS投与直後のマウスはぐったりした様子で,昨年度は投与24時間後にCRPが有意に増加していたため,炎症は起きていたがCRPには変化がなかったと考えられる。LPS投与24時間後に,ラドン(1000Bq/m3,10000Bq/m3)を24時間吸入させ,LPS投与により炎症を起こしたマウスと正常マウスとのラドン曝露の影響を比較した。CRPでの評価が難しいため,酸化ストレスに関連する抗酸化物質のスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)とグルタチオン(GSH)を測定した。SODは有意な変化はなく,GSHはラドン曝露(1000Bq/m3)で有意に増加した。これらのデータを品質工学の手法を用いて評価したところ,炎症と被ばくに対する交互作用が大きいことがわかった。SODやGSHは増加するほど抗酸化機能が亢進していると言えるため望大特性SN比を求めたが,望大特性SN比ではばらつきの評価が不十分であったこともふまえ,平成30年度の結果と総合的に検討すると,損失関数によって放射線リスクを評価するにはさらなるデータ収集と解析法の検討が必要であることがわかった。
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