研究課題/領域番号 |
19K21662
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横山 智 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (30363518)
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研究分担者 |
藤本 武 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (20351190)
山本 宗立 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 准教授 (20528989)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 発酵食品 / 伝統食 / 食文化 |
研究実績の概要 |
東北タイ・ナコーンパノム県、ラオス中部カムアン県とボリカムサイ県、ラオス北部サイヤブリー県とルアンパバーン県において、現地で日常的に飲食されている伝統的発酵食品に関して、その製法と利用に関する現地調査を実施した。調査を行った発酵食品は、タイでは、魚の塩辛(プララー)とモチ米の醸造酒(ラオ・カオクロン)、ラオスでは、発酵豚肉ソーセージ(ソム・ムー)、発酵牛肉ソーセージ(マム)、発酵水牛皮(ナン・ケム)、発酵牛皮(ナン・トォート/ナン・ニャム)、発酵魚(パーチャオ)、モチ米蒸留酒(ラオ・ラーオ)、餅麹(ペーン・ラオ)、後発酵茶(ミアン)である。 これらの伝統的発酵食品の中でも、後発酵茶(ミアン)は、タイとミャンマーにおける研究結果は多いが、ラオスの研究はほとんど行われていない。ラオスのサイヤブリー県では、焼畑を営む少数民族プライ族が後発酵茶を生産しており、蒸した茶葉を竹筒に詰め庭先に一ヵ月以上埋めて乳酸発酵させる方法であった。このような製法はかつてタイでも行われていたが、現在は消滅しており、東南アジア大陸部ではラオスのこの地域にだけに残っている貴重な製法であると考えられる。現地では酸味の強いミアンとそうで無いミアンの2つのタイプが区別されていた。しかし近年、飲用茶葉の出荷が増えており、食用の後発酵茶の文化が衰退しつつあることが示唆された。 また、酒の製造に欠かすことが出来ない麹づくりにおいては、伝統的な方法で餅麹を製造している世帯では、餅麹の原材料に唐辛子を利用していた。一方で、商業的に酒を製造する世帯では、市販の餅麹を利用、または自家製でも非常に簡素化した方法で作った餅麹を利用しており、餅麹への唐辛子利用がみられなかった。伝統的な餅麹の製法技術は喪失の危機にあり、東南アジアの広範囲で酒文化に関する調査を早急に行う必要があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年3月にインドネシア・マルク州で伝統的発酵食品の調査を実施する計画をしていた。しかし、新型コロナウィルスの影響で調査が延期になり、予定していた研究を実施することが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、インドネシア・マルク州およびアフリカ北東部および西部において、伝統的発酵食品の調査を行い、各地の発酵食品の製法、利用方法を調査する。インドネシアでは、伝統的発酵飲料としてのヤシ酒が生産されており、ヤシ酒は世界各地で見られるものの、その位置づけは、地域によって多様である。そこで、インドネシアにおけるヤシ酒の製造・利用に関する現地調査を行い、東南アジア島嶼部におけるヤシ酒の位置づけを明らかにする。また、アフリカ北東部のエチオピアでは様々な食品(パン、パンケーキ、ビール、非アルコール飲料など)に乳酸発酵が関与している。今年度は、エンセーテという独特なイモ類の発酵食品に関する定量的調査を実施する。 昨年度の東南アジア大陸部での調査結果、そして今年度実施する2地域の調査結果を比較し、現地の食文化において、発酵食品がどのような位置づけを有しているのか、検討してまとめる。 ただし、現状では、新型コロナウィルスの影響でいつから海外調査の実施が可能になるのか、まだ見通しが立っていない。したがって、総合的・通地域的な考察を行うための学際的な研究会「発酵食品に関する総合的研究会」などを通じて、メンバー以外の研究者を交えて情報交換を行いながら、調査が出来なくても研究を進展させるような研究手法を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度3月にインドネシアにおいて伝統的発酵食品の調査を実施する予定であった。しかし,新型コロナウィルスの影響により海外渡航が困難になり,調査がキャンセルになってしまった。研究分担者の山本がインドネシアの現地カウンターパート機関と連絡を取り続けており,現地の情報を得ている。渡航可能になった時点で改めて現地調査を行う計画を立て,インドネシア調査を実施する計画である。 また,申請書作成時点では,アフリカ調査を予定していたが,海外への渡航自体が難しい状況であり,インドネシア調査と同様に調査実施の目処が立っていない。アフリカ調査に関しては,研究分担者の藤本がエチオピアのカウンターパート機関と連絡を取っており,現地情報の把握に努めている。新型コロナウィルスが収束し,海外渡航が可能となり,かつ現地が受入可能な状況になり次第,速やかに調査を行う予定である。 なお,調査予定地(インドネシアとアフリカ)の状況が改善しない場合は,調査地を変更にするなどの措置をとることも考えたい。
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