研究実績の概要 |
Gross-Zagier公式とは,モジュラー曲線上のHeegner点に対し,その数論的な複雑さを測る「自己高さペアリング」という値を「保型L関数の微分係数」という解析的な量によって記述する,非常に興味深い等式であり,楕円曲線に対する有名な未解決問題であるBSD予想にも応用されている.パーフェクトイド空間の理論を用いることで,この公式を高次元のモジュラー多様体に拡張し,BSD予想の一般化であるBeilinson-Bloch-Kato予想に貢献することが本研究課題の主目的である. 前年度に,Gross-Zagier公式の局所版にあたる,数論的基本補題という予想がWei Zhangによって解決されるという大きな動向があった.本研究課題の鍵を握る「無限レベル版の数論的基本補題」の確立のためには,Wei Zhangの手法を正確に把握することが不可欠であると考えられたため,前年度に引き続き,今年度もWei Zhangの証明を分析する作業を行った.その結果,証明の概要を把握することはできたが,本研究課題の目指す方向とはかなり異なった種類の議論を行っていることが分かり,具体的な成果には繋げることができなかった.数論的基本補題の証明について,少人数で感染に十分注意した対面の勉強会を企画していたが,それが緊急事態宣言によって開催できなくなるなど,コロナウイルス感染症の影響が予想外に大きく,予定していた計画に沿った研究を行うのが非常に困難な一年であった.
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