Gross-Zagier公式とは,モジュラー曲線上のHeegner点に対し,その数論的な複雑さを測る「自己高さペアリング」という値を「保型L関数の微分係数」という解析的な量によって記述する,非常に興味深い等式であり,楕円曲線に対する有名な未解決問題であるBSD予想にも応用されている.パーフェクトイド空間の理論を用いることで,この公式を高次元のモジュラー多様体に拡張し,BSD予想の一般化であるBeilinson-Bloch-Kato予想に貢献することが本研究課題の主目的であった.研究期間中に,Wei Zhangによって数論的基本補題が解決されるという大きな動向があり,それを踏まえて研究の方向性を変更する必要が生じた.Wei Zhangの論文の検討を行ったところ,本研究課題の目指す方向とはかなり異なった種類の議論を行っていることが分かり,具体的な成果には繋げることはできなかった.また,局所志村多様体(モジュラー多様体のp進類似)のある意味での一般化にあたる局所シュトゥカのモジュライ空間に注目し,その数論的交叉数に関する成果を得ることを目指したが,有意義な成果を得るところまでは至らなかった.今年度は,さらに研究の方向性を変え,Darmon-Rotgerによるp進Gross-Zagier公式を拡張するという問題に取り組んだ.うまく議論が機能しそうな設定を見つけることはできたが,まとまった結果を挙げるためには,さらに研究を積み重ねる必要がある.
|