研究課題
非破壊でバルク材料の化学結合状態の情報が得られる軟X線発光分光法(SXES)と電子顕微鏡法を組合わせ、高出力・大容量2次電池やリラクサー強誘電体などの機能と直結する3d遷移金属元素の酸化状態・スピン状態の実空間分布を調べる実験手法の開拓を目指し、下記の二つの項目について研究を遂行して成果を得た。(1)高分解能SXES装置の試作と評価: 回折格子から検出器までの距離が汎用装置の2倍となる分光装置の設計・試作を行い、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)に装着した。この装置用に、6μmピッチのマルチチャンネル検出器と高解像度CMOSカメラを組合せた検出器を作製して搭載した。分光器、検出器の最適条件を見出して測定した結果、汎用SXES装置に比べ2.2倍の解像度であることを確認した。(2)3d遷移金属化合物への応用と酸化(価数)状態・スピン状態の計測と評価: 3d遷移金属元素とその酸化物(Mn酸化物、Fe酸化物、Cu酸化物)のL発光(Lαβ、Llη)スペクトルの系統的測定と比較から、以下の成果を得た。(A)高分解能化により、価数変化に伴うLαピーク位置のシフトが明瞭に測定できるとともに、これまで汎用SXES装置やEPMAでは観測できていなかった、Feの2価と3価の混在に起因するFe3O4のLα発光ピークの2価、3価スプリットが測定でき、学会で報告した。(B)3d殻磁気モーメントが大きなMnOやFe酸化物のLl発光ピークの低エネルギー側にスピン軌道相互作用に起因する肩状構造が出現することを明らかにした。ピーク分離処理から、スピン軌道相互作用エネルギーが約3eVであることを明らかにした。以上により、電子顕微鏡と高分解能SXESの組み合わせにより、3d遷移金属元素の酸化状態・スピン状態の実空間分布を調べる実験手法の基礎が確立できた。
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