研究課題/領域番号 |
19K22120
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下志万 貴博 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (70581578)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 超高速電子顕微鏡 / 光渦 / 音響フォノン |
研究実績の概要 |
近年、光の軌道角運動量をもつ新たなレーザー光である「光渦」が実現されている。これまでに光渦の照射による螺旋構造物の形成や微粒子の回転等の物質制御が知られているが、光のトポロジーが物質に転写される過程は明らかになっていない。本研究では、光渦の特性が反映された固体の新たな励起状態を探索し、高精度に可視化することを目的とする。具体的には光渦による磁気スキルミオンや音響フォノンの発生を試み、その形成および伝搬過程を明らかにする。本研究目的を達成するためには、固体の微小領域に励起される空間的非一様なダイナミクスをイメージング検出する必要がある。本研究では、ナノメートルの空間分解能とフェムト秒の時間分解能を両立する実験手法である超高速電子顕微鏡法を用いる。 今年度は、予備実験として渦構造をもたない超短パルスレーザー照射により生じた音響フォノン(衝撃波)のイメージング検出を試みた。初めにSi単結晶を用いて、光吸収に伴う急激な格子膨張による音響フォノン発生を観測した。明視野像観察において薄片試料を伝わる衝撃波の伝搬をピコ秒の時間分解能で検出した。特に、薄片試料における不連続な境界が振動源となることが明らかとなった。次に、1T"-VTe2において光誘起構造相転移を利用した新規な音響フォノンの観測に成功した。この音響フォノンは、構造相転移により生ずる特定の結晶軸方向の原子変位に起因していると考えられる。さらに結晶構造の異方性を反映し、結晶軸ごとに異なる音速により伝搬する様子をとらえた。これに加えて、本装置に新たに位相板を導入し、生成された光渦を励起光として用いる光学系の構築に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予備実験として、ガウシアンビームを用いた観測視野における均一な光励起による音響フォノン発生を試みた。単純な構造をもつ試料から複雑な相転移を示す物質まで、生成機構の異なる複数の音響フォノンを直接可視化することに成功した。また、これと並行して光渦を生成するための光学系の構築を進めた。これまでの研究実績はおおむね当初の計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は光渦を生成するための光学系の構築をさらに進める。特に軌道角運動量を励起パラメータとするために、チャージ数の異なる複数の位相板を切り替え可能な構造とする。光渦を用いるとチャージ数に応じた異なる温度分布が固体に形成され、音響フォノンの形成に自由度が生ずる。光渦を用いた実験では、音響フォノンの波長制御あるいはヘリシティを有する新規な渦状の音響フォノンの検出を目指す。 光渦は強度分布が光軸上でゼロになる特異点を有する。このリング状の強度分布を用いて渦状の磁気構造(スキルミオン)を熱的に励起できる可能性が理論的に指摘されている。来年度は、直径2マイクロメートルまでスポット径を絞った光渦をカイラル磁性体CoZnMnに照射し、その中心軸付近に現れる微小なスキルミオンの生成過程をローレンツ電子顕微鏡像により可視化することを目指す。
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