常温で駆動する次世代磁気デバイス開発に向け、常温で優れた磁気特性を示す材料の開発が重要である。我々は、新たな常温磁性体の開発に向け、ランタノイド元素の中で最も高い磁性を示す「ホルミウム:元素番号67」に着目した研究を行なっている。これまでに、ポリアクリル酸もしくはポリケトエステルからなる高分子担体に3価のホルミウムを高密度で導入することで、常温でネオジウム磁石に応答するソフト磁性材料の作製を報告してきた。 本研究では、自己組織化的に組み上がる液晶の秩序性を利用し、ホルミウムに高い配向秩序性を付与し、低エネルギープロセスでの常温磁性体の作製を目指して研究を行った。その結果、ホルミウムとβ-ジケトン型ディスク状分子を用いて作成した錯体が、自発的にカラムナー液晶を形成することを見出した。さらに、β-ジケトン型ディスク状分子の側鎖のアルキル鎖の炭素数と本数の影響を詳細に調べたところ、カラムナー液晶に加えて、室温でキュービック液晶を発現する材料の作成に成功した。得られた材料はいずれも室温でネオジウム磁石に瞬時に応答し優れた磁気応答を示し、SQUID測定により詳細な磁気特性を解析したところ常磁性を示す材料であることがわかった。 目的の1つであった強磁性の発現には至らなかったが、分子設計により、低エネルギープロセスでホルミウム元素を1次元ならびに3次元的に高秩序に配向したカラム状集合体の発現指針を見出すことに成功した。今後これらの材料のより詳細な設計によって、より磁気特性に優れた材料の作成が期待される。
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