研究課題/領域番号 |
19K22236
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
磯部 徹彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30212971)
|
研究分担者 |
磯 由樹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00769705)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | カーボンドット / 蛍光 / 液相合成 |
研究実績の概要 |
カーボンドット(CDs)蛍光体は、重金属を含む量子ドットの代替材料の有力な候補として注目されている。しかし、多くのCDsは青色または緑色蛍光を示すことが課題である。本研究では、o-, m-, p-の3種類のフェニレンジアミン(PD)を炭素原料とし、ジフェニルエーテル中での加熱還流によってCDsを作製して、各PDの重合過程に基づくCDsの構造の違いが蛍光特性に与える影響を検討した。作製したCDsを極性の異なる8種類の溶媒に分散させると、分散媒の極性の増大に伴って蛍光ピークがレッドシフトする蛍光ソルバトクロミズムを示した。また、p-PDから作製したCDsは極性の高い分散媒中で赤色蛍光を示し、かつ、最も高い絶対蛍光量子収率(PLQY)を示した。分散媒に長鎖の1-デカノールおよび重水素化メタノールを用いると、最大PLQYは向上した。これらはそれぞれπ-π相互作用によるスタッキングの抑制およびOH基の振動による非放射緩和遷移の抑制に起因すると推察される。 さらに、デカン酸(DA)およびパーフルオロデカン酸(PFDA)のカルボキシ基と、CDs表面のアミノ基との脱水縮合によりCDsを表面修飾し、表面修飾がCDsの蛍光特性に与える影響を調査した。その結果、蛍光ソルバトクロミズムによる蛍光ピークのレッドシフト幅がDA-CDs < PFDA-CDs < CDsの順序となった。この原因として、PFDAで修飾すると、(i) 電子求引性のパーフルオロアルキル基の導入によりCDs表面の分極が増大し、C-F結合を介して分散媒とCDs表面の双極子が相互作用したことと、(ii) 立体障害によって分散媒のCDs表面への接近が阻害されたこと、すなわち、シフト幅を増大と減少させる2つの要因が作用したことが考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
o-, m-, p-の3種類のPDの炭素原料の中で、p-PDが蛍光ピークを最も長波長側へシフトでき、かつ、PLQYを最も高くできるCDsの原料であることを明らかにできた。また、PLQYを向上させるためには、π-π相互作用によるスタッキングの抑制およびOH基の振動による非放射緩和遷移の抑制が有効であることを明らかにした。さらに、CDsの合成をコア部の合成と表面修飾の2段階で行い、表面修飾によって蛍光ソルバトクロミズムによる蛍光ピークのレッドシフト幅を調節できることを明らかにした。よって、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
表面修飾によって蛍光ピークのシフトを調節できたが、励起光の吸光度およびPLQYが低下した。この原因として、表面修飾によって電子供与性の高いアミノ基の数が減少し、発光に寄与するπ電子密度が低下したことが考えられる。この課題を解決するために、CDs表面に電子供与性の高い官能基を導入する方策を検討する。また、p-PDから作製されるCDsは青色光で励起できるが、蛍光ピークがブロードであるので、照明の用途には適しているが、広色域ディスプレイの用途には不向きである。そこで、狭帯域蛍光を示すCDsの先進的な液相合成法も検討する。
|