研究課題
現代の労働集約型農業においては、最終的に必要な個体数よりも多めに播種し、間引きを行うことが、通常行われている栽培形式である。この「間引き」は篤農家の経験・伝承・勘に基づいており、どのような科学的根拠があるのかという点について、不明な点が多い。本研究では、栽培環境における「疎と密」効果がどの様なものであるかという実態を分子レベルで解明するために、植物の生長に影響を与える、植物体で生合成され、根から分泌される物質、根系微生物との相互作用、土壌中の微量金属イオン動態の調査を行う。さらに、近現代の農書からもこの「疎と密」に関連する記述事項を調査し、この栽培技術がどの時代から行われていたかについても領域融合的な研究から実態解明を目指す。今年度は春、秋の栽培時期に複数回の圃場栽培実験を行い、栽培密度による「お友達効果」を検出した。また、栽培圃場から土壌、植物体を採取し、土壌微生物、植物体での発現遺伝子、土壌金属を測定する条件を整えた。先行的に実験を展開した、土壌微生物では栽植密度に応答して微生物群落が変化する可能性を見出した。また、栽培土壌からのRNA抽出が困難とされていた根からのtotal RNA抽出の実験系も確立できた。土壌金属については、測定条件を整えた。江戸時代のミズナが栽培されていた当時の農書の分析も開始した。なお、2020年2月から感染拡大した新型コロナウイルスの影響があり、2020年度の栽培開始にも影響が及ぶことが危惧されることから、春作での栽培で計測することを限定し、秋作での栽培実験に力点を於いた実験設計を構築すべきであると考えている。
2: おおむね順調に進展している
栽培にはミズナを用いて、農学部の圃場を実験区として、複数回の圃場栽培実験を行い、栽培密度による「お友達効果」を検出した。最適な時期に栽培した圃場から土壌、植物体を採取し、土壌微生物、植物体での発現遺伝子、土壌金属を測定する条件を整えた。先行的に実験を展開した土壌微生物では栽植密度に応答して微生物群落が変化する可能性を見出した。このことは、栽植密度が微生物叢に影響する可能性があると考えた。また、栽培土壌からのRNA抽出が困難とされていた根からのRNA抽出の実験系もいくつかの実験手法を試すことで確立でき、次年度のトランスクリプトーム解析の準備を行った。合わせて、in silico解析が可能な研究者との連携も行った。土壌金属については、主要元素、微量元素などの測定条件を整備した。江戸時代の農書の分析も開始し、ミズナが栽培されている時期の栽培条件も検討した。以上の点から、概ね順調に推移している。
いずれの実験も順調に推移していることから、それぞれの実験で詳細なdataがでたところで、それらを突合して、どの様な因子が相互に連関しているのかを調査できる。また、お友達効果についても、その詳細を確認するために、圃場の整備も準備が整っている。唯一の弊害は、世界的な規模で発生している新型コロナウイルスの蔓延により、本報告書を作成している段階で、各種実験の開始のめどが立っていないことである。ミズナは秋冬作であるが、春にも適期があり、その期間に実験ができないのは、大きな障害である。また、収束にめどが立たないことから、秋作にも影響が出るのではないかと危惧している。
令和元年東日本台風の影響により、予備的な実験のサンプルを集めることはできたが、令和元年東日本台風の2週間前に播種したサンプルを使うことができず、そのために、それらのサンプルを解析するための経費を、翌年度実施分とした。また、世界的な規模の新型コロナウイルスの蔓延のスタートが2月であり、圃場の整備はできたが、播種をすることが困難となり、その関連整備費を次年度使用とした。
今年度は、関連したアウトリーチ活動を72件(3,856人)に対して行い、いずれのところでも盛況であり、次年度以降の継続を要請された。しかしながら、新型コロナウイルスの蔓延で、困難な状況である。
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