研究課題/領域番号 |
19K22406
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩崎 信太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (80611441)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 翻訳 / Ribosome / Ribosome profiling / 重力 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
本研究は重力がタンパク質合成にどう影響しうるか、を検証することを目的としている。これを解析するために、ヒトHEK293細胞を微小重力を再現することので きるクリノスタットをもちい培養し、ribosome profilingを行った。その結果、ミトコンドリアゲノムにコードされた13のmRNAの翻訳が微小重力によって減少する、ということを見出した。これに対し、RNA-seqを行ったが、mRNAの両変化は観察されない。この研究結果は重力が何らかの分子を介して、細胞内のオルガネラまで伝わり、ミトコンドリア内のタンパク質合成の調節を担っているという、極めて新規な現象を発見したことを示している。同様の現象はヒトだけでなくマウス培養細胞でも見られることから進化的に保存された現象であることが分かった。また、逆に加重力によって、ミトコンドリア翻訳が亢進することも分かっており、非常に可塑的な反応であることが示唆される。これまでに微小重力によって細胞接着が物理的に弱まることが知られていたことから、細胞接着がミトコンドリア翻訳の活性化につながっているかを検証した。ミトコンドリア内で合成されているタンパク質を特異的にラベルする手法を用いて解析を行うと、ラミニンによる細胞接着をの増減に比例して、ミトコンドリア翻訳が調整されていることが明らかになった。またこれには細胞接着斑キナーゼであるFAKが必要であることもわかってきた。また、細胞を微小重力においた後にミトコンドリア内プロテオームをSILAC法で解析したところミトコンドリアタンパク質自体が減少することも明らかになりつつある。本研究によってこれまで未知であった、重力-細胞接着-ミトコンドリア翻訳の制御軸を明らかにするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年までの解析により、これまで未知であった生命現象の一旦が明らかになっている。今後さらにその分子機構の理解が望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
FAKが細胞接着の情報をミトコンドリア翻訳へ伝える重要な因子であることがわかったものの、その下流には複数のキナーゼが存在し、どの経路が必須であるのかといった点は不明である。これまでに知られていない新規キナーゼが必要である可能性もある。また、最終的に情報をミトコンドリアのマトリックスで行われている翻訳へ伝える必要があるが、情報の伝達のためにミトコンドリア膜を通過しなければならず、そのような因子の手がかりが全くない。このような因子を同定するためには、新たなスリーニング系が必須であり、複数の手法を組み合わせることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はJAXAとの共同研究の上、国際宇宙ステーションきぼう実験室中で微小重力実験を行うことを想定していたが、国際宇宙ステーションへサンプルを届けるロケット打ち上げの延期、および国際宇宙ステーション上の実験機器の故障が重なったため、研究計画が遅延した。無事実験は終了しているが、地上へのサンプルの回収、および実験、解析が今後必須であり、これに合わせ、次年度に研究費の使用が必要となった。
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