研究課題/領域番号 |
19K22546
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
本田 浩章 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (40245064)
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研究分担者 |
世良 康如 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (40836532)
本田 善一郎 お茶の水女子大学, 保健管理センター, 教授 (70238814)
岩崎 正幸 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70790913)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストンメチル化・脱メチル化 / UTX / UTY / 幹細胞老化 |
研究実績の概要 |
我々はヒストン修飾因子であるUtxのコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製し、ERT2マウスと掛け合わせtamoxifenで欠失誘導を行い造血組織を中心に解析を行った。その結果、血球形態異常、髄外造血による脾臓腫大、造血幹細胞移植での骨髄再構築能低下という、造血幹細胞老化に特徴的な所見を認めた。この申請では、このUtx欠失による老化が造血系のみの現象か、また各種組織幹細胞で普遍的に認められるかについて、様々な組織特異的Creマウスと掛け合わせ、その組織のヒト老化関連疾患に類似した表現型を呈するかどうかについて検討を行なう。「現在までの進捗状況」にある様に、皮膚特異的、脳特異的、血管特異的、骨特異的にUtxを欠損したマウスが得られ、解析を行なっている。 また、Utxの発現増加が老化の回復および遅延に寄与するかについても併せて検討を行う。この目的で、ノックインの手法により誘導可能にUtxを高発現するマウスの作製を行なった。このマウスを、上記のうち、老化の表現型が認められたマウスと掛け合わせて、表現型の回復や遅延が認められるかどうかについて検討を行う予定である。 また、UTXはX染色体上に存在し、Y染色体上にその相補体であるUTYが存在するが、UTXと異なりUTYは脱メチル化酵素活性は有しないとされている。女性と男性での老化感受性の違いについて検討する目的で、Utyのノックアウトマウスの作製も行い、Utx cKOとの表現型の相違について解析を行う。このマウスはすでに得られており、UTY欠失の確認を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、Utx cKOマウスを、皮膚特異的にCreを発現するK5Creマウス、脳特異的にCreを発現するSox1Creマウス、血管特異的にCreを発現するTie2Creマウス、骨特異的にCreを発現するDmp1Creマウスと掛け合わせ、解析を行なっている。これまでもっとも表現型が強く認められているマウスとして、K5Creマウスとの掛け合わせ(Utx cKO, K5Creマウス)とSox1Creマウスとの掛け合わせ(Utx cKO, Sox1Creマウス)が挙げられる。Utx cKO, K5Creマウスでは、コントロール(Ctrl)マウスに比較して加齢と共に全身の脱毛が認められており、脱毛は腹側に広範囲に、また背側でも顕著に認めている。毛髪の老化マウスの可能性があり、原因の解析を行っている。 また、Utx cKO, Sox1Creマウスは100匹以上の離乳したマウスの中に目的マウスが認められず、胎生致死の可能性が考えられたが、生後1日以内に死亡することが判明した。妊娠終期または出産直後のUtx cKO, Sox1Creマウスの病理解析を行ったところ、Ctrlマウスに比較して脳室が著名に拡大していることが明らかとなった。現在、脳室拡大の原因について、脳室繊毛の電子顕微鏡写真を撮影するとともに、CtrlマウスとUtx cKO, Sox1Creマウスの脳から神経幹細胞を単離してRNA-seqを行い、網羅的な遺伝子発現の違いについて解析を行っている。 また、誘導可能にUtxを高発現するマウスについては、Rosa26のlocusにUtxをコンディショナルノックイン(cKI)したマウスの作製に成功している。また、UtyのKOマウスについては、ゲノム編集を用いた遺伝子改変マウス作製により複数のラインを得ており、これらのマウスについては、目的変異alleleの生殖細胞系列伝達が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
Utx cKO, K5Creマウスは加齢と共に脱毛を認め、毛根幹細胞の老化マウスの可能性がある。この機序を解明する目的で、CtrlとUtx cKO, K5Creマウスの皮膚を採取し病理学的検索を行うと共に、発毛に関する遺伝子についてin situ hybridizationを行う。また毛根幹細胞を単離しRNA-seqを行い、網羅的な遺伝子発現の違いについて解析する。 Utx cKO, Sox1Creマウスは、胎生期に脳室拡大を来すことが判明した。この分子機構については上記の方法で解明を試みるが、生後すぐ死亡するため脳の老化マウスモデルとしては活用できない。そこで、誘導可能に脳細胞で目的遺伝子を欠失させるNestin-ERT2Creマウスを導入し(共同研究者から入手可能)、Utx cKOマウスと掛け合わせtamoxifen投与により後天性にUtxを欠失させたマウスを作製し、その脳機能について解析を行う。 Utx cKIマウスについては、ERT2Creマウスと掛け合わせtamoxifenを投与し造血細胞を単離してUTX発現上昇を確認する。このマウスをUtx cKO, ERT2Creマウスと掛け合わせてUtx cKO, ERT2CreマウスおよびUtx cKO, Utx cKI, ERT2Creマウスを作製する。これらのマウスにtamoxifen投与を行い、Utx cKO, ERT2Creマウスに認められる造血幹細胞老化の表現型がUtx cKIによりrescueされるかどうかを検討する。 UtyのKOマウスについてはUTY欠失確認後にUtx cKOマウスと交配し、Utx cKO Uty KOマウスを作製する。このマウスを各種Creマウスと交配し、Utx cKOマウスとUtx cKO Uty KOマウスの表現型を比較し、男女間での老化感受性の違いについて検討する。
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