研究課題
遺伝性疾患における変異のうち、全体の約三分の一において異常な終止コドンを生じる。このような変異遺伝子由来mRNAは品質管理機構であるNMDにより分解排除される。この異常終止コドンを有するmRNA由来のタンパク質が機能を有する症例由来の細胞では、mRNA監視機構阻害は細胞機能回復へつながることをこれまでに明らかとしてきた。Cystic Fibrosisやデュシャンヌ型筋ジストロ フィーを初めとする遺伝子変異の10%を占める点変異による異常終止コドンについては、終止コドンリードスルー剤の開発が進められているが、リードスルー剤はNMDをほとんど阻害しないため、これにmRNA監視機構阻害を組み合わせることで相乗効果があることも期待される。このような状況の中、近年、転写制御レポーターアッセイを元にしたNMD阻害薬スクリーニングの報告が相次いでいる。しかし、NMD阻害活性を追試できない「擬陽性」が含まれていることが大きなボトルネックとなっており、真のNMD阻害剤が待ち望まれている。一方、NMD阻害による疾患症状回復の可能性をテストする動物モデルはこれまで存在しなかった。また、リードスルー剤による症状回復モデルマウスは樹立されているが、その全てがトランスジェニックマウスであり、多コピーのトランスジンが発現している。そのため、実際の遺伝性疾患におけるシングルコピーの遺伝子での治療効果を必ずしも反映していない。昨年度までに、CFTR cDNAの入手を行い、発現ベクターの構築を進めると共に、動物実験計画を策定し、CFTR W1278Xマウスの準備を進めた。
3: やや遅れている
基礎検討に関しては、CFTR cDNA入手とベクター構築を進めている。一方で、同様の変異体を用いたNMD阻害解析について論文が発表された。結果は本研究で期待したとおり、NMD阻害によりW1282X変異体cDNA由来タンパク質が機能を発揮するというものであった。この結果を追試すると共に、Read thorugh薬との協調効果を確認する必要がある。動物実験については、動物移入予定時期にCOVID-19による実験制限がかかり、動物の移入を取りやめた。また、本学動物実験申請の更新に時間がかかっており、動物実験開始が夏以降となる。
COVID-19の状況によるが、出来るだけ早くマウスの移入を行い、研究を遂行する。本研究では、横浜市立大学で開発されたシーズ技術である①高精度転写後制御モニタリングシステム(特許準備中)、② 新規SMG1阻害剤、 ③ mCFTR-W1278Xノックインマウスを用いる。ATCCより入手可能であったヒト不死化CFTR-W1283X患者由来細胞(hCFTR-W1283X)は、ATCCが配布を終了したため、別途CF Canada-Sick Kids programより入手し、分子生物学的解析を担当する。また、CFTR cDNAを用いた解析も行う。研究協力者である横浜市立大学高血圧腎臓内科学 田村功一主任教授、涌井広道講師、山地孝拡医師は、薬剤投与、組織解析を担当する。これらの解析を通じ、SMG1阻害剤同定後のin vitroレベル、in vivoレベルでのPOC取得といった基礎開発過程を研究期間内に一気に行うプランを描いている。確実な成果を得るため、hCFTR-W1283X細胞、mCFTR-W1278Xマウスに対し、リードスルー剤、CFTR安定化剤(VX-770)を用いた解析も進める。
進捗状況で述べたとおり、本学実験動物申請の更新に時間を要したことに加え、COVID-19感染症のため、動物実験を休止したため。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件)
Cell Reports
巻: 31 ページ: 107407~107407
10.1016/j.celrep.2020.02.088
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 1782
10.1038/s41598-020-58214-0
巻: 9 ページ: 16550
10.1038/s41598-019-52566-y
Nucleic Acids Research
巻: 47 ページ: 8838~8859
10.1093/nar/gkz628
Nature Microbiology
巻: 4 ページ: 1532~1544
10.1038/s41564-019-0460-3
巻: 9 ページ: 6201
10.1038/s41598-019-42657-1
Journal of the American Heart Association
巻: 8 ページ: e012395
10.1161/JAHA.119.012395