「茶禅一味」という言葉があるように、茶と禅との関わりは従来注目されてきた。しかし中世の密教星供において、茶は代表的な供物と知られているように、喫茶文化の世界は決して禅のみによって構成されるものではない。本研究は、これまであまり茶の検討に用いられてこなかった、多様な形式を持つ密教の「聖教」を主な資料とし、いっそうリアルに当時の茶を認識していくことを目指す点において、学術的な意義があるといえる。また単なる新たな資料の抽出にとどまらず、中国から伝わる日本の喫茶文化はどのような融合や相克の過程を経て形成されたのか、より広い視野で検討する視点を提供できた点に社会的意義がある。
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