研究課題/領域番号 |
19K23131
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮前 良平 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (20849830)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 被災写真返却活動 / 写真洗浄 / 集合的トラウマ / 語りえないもの / 災害伝承 / ボランティア |
研究実績の概要 |
本研究課題は、被災者の語りに潜んでいる「語りえなさ」に着目することで、意味の伝達に重きを置いたコミュニケーション論ではない新たな災害伝承論の構築をめざしている。そのため、一般化あるいは通説化されてしまった災害の語りではない、被災者一人ひとりに固有の被災・復興体験を一人称的に捉えなおす必要がある。 上記の目的を達成するために、岩手県野田村で開催されている被災写真返却活動に参加し、津波で流された写真の持ち主を探しながら、津波で被災された方々の震災前のなにげない思い出を聞き取った。また、そういった活動を続けているボランティアの方々の語りを聞くために、2018年の西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町で活動している「真備洗浄」のスタッフの方々にお話を伺った。加えて、昨年度10月に発災した台風19号水害の被災地のひとつである、長野県長野市に発災直後から入り、ボランティアとして活動しながら、現地での写真洗浄活動の立ち上げに深くかかわった。災害伝承における「語りえなさ」に着目するために、東日本大震災で被災された方々、西日本豪雨のボランティアの方々といった二つの側面からの聞き取り調査、さらには台風19号水害では自らが写真洗浄の当事者としてアクションリサーチを行い、多面的に研究を展開してきた。 また、アメリカ・ウェストヴァージニア州バッファロー・クリークで48年前に起きたダムの崩壊事故のを描いた著書『Everything in its Path』の翻訳と、現地での調査を通して、集合的トラウマという観点から「語れなくなってしまったもの」について議論をまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、当該年度は宮城県及び高知県での調査を主に行う予定であった。しかしながら、10月に発災した台風19号水害への対応や、その後の長野市での写真洗浄活動の立ち上げに従事することを最優先したため、当初予定していた調査については数回にとどまった。しかしながら、長野では地元の社会福祉協議会やNPOセンター、ボランティア団体との関係を構築でき、被災された方々との寄り添いの中で貴重なお話をたくさん聞かせていただいた。これはまさに、研究計画にも書いた「一人ひとりに固有の語り」に他ならない。これらのことを総合的に勘案して、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の本研究課題の推進方策についてだが、基本的には昨年度実施できなかった宮城県と高知県での調査を進めていく。また、長野での調査も継続することで、当初の計画を超えた規模の研究が可能になると考えている。
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