研究課題/領域番号 |
19K23148
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高畑 柊子 東北大学, 法学研究科, 助教 (00844929)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 公法学 / 行政法 / フランス法 / 行政訴訟 / 取消判決 / 適法性の原理 / 判決の実効性 |
研究実績の概要 |
研究初年度である令和元年度は、フランスの最高行政裁判所であるコンセイユ・デタによる取消判決の既判事項、つまり裁判所の判断によって、① 行政はいかなる行為規範を負うのか、② その正当化論理は何なのか、③ さらにそのような行為規範の履践をいかにして担保するのかという三点につき、分析を進め、19世紀から20世紀中葉までの判例・学説に関する検討を施した論文(「フランス越権訴訟における取消判決の法理論:「適法性の原理(principe de legalite)」の発展可能性に関する序論的考察 」(一)~(三))を公表あるいは脱稿した。 この時代に関する分析の結果は、以下の通りである。 すなわち、20世紀以降のフランス法は既判事項の権威をめぐるサンクションとして、古くから私人による提訴を契機とした裁判的統制を発達させてきたことを指摘した(③)。同時に、このような裁判的統制の実現は、行政権の一部としてのコンセイユ・デタと越権訴訟の成立・確立をめぐる歴史的背景と分かちがたく結びついていたことが古典的文献を読み解く中で明らかとなった(②)。これらの結論を導き出すことを可能としたのは、20世紀中葉までにすでに蓄積されていた膨大なコンセイユ・デタ判例であり、そこでは、第三者の権利利益を犠牲にしてでも取消判決に基づく行政の義務の履行が求められることがしばしばあった(①)。このように、強力なサンクションによって適法性の原理の具現化が図られた時代として刻印されていることをも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに連載論文の第1回から第3回までが校了済ないし脱稿済であり、実施計画通り、公表に向けた準備をすすめている。一方で、フランスでの資料収集は、現地でのストライキの激化や新型コロナウイルスの流行により断念せざるをえなかったため、研究計画の一部は次年度に実施することとする。
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今後の研究の推進方策 |
まず、20世紀前半の判例法理の基層をなす学説上の議論とその後の判例法理の変容を丁寧に論証し、連載論文を完結させる。 また、上記論文では十分に検討しきれていない判例法と法律概念の位相につき、行政法の法典化をめぐるフランス法の展開を軸に、第三共和制から現在までの議論の変化を、通時的に考察する。そこでは、法としての正統性を外在的存在に求める立場と内在的に構築する立場とにわけることが、法規範としての根拠論を問ううえで、ひとつの補助線になりうると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
台風19号によるフライトの欠便により、公法学会への参加がかなわなかったことと、フランスとりわけパリでの冬のストライキ激化と春の新型コロナウイルスの流行により、パリでの資料収集が実現しなかったため。後者の状況が改善に至った場合には、フランスへの渡航を計画し、それが困難な場合には、より多くの文献を購入し、分析の対象とする。
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