研究課題/領域番号 |
19K23148
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高畑 柊子 東北大学, 法学研究科, 助教 (00844929)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 適法性の原理 / 行政訴訟 / 取消訴訟 / フランス法 / 判決の実効性 |
研究実績の概要 |
2020年度は、取消判決の既判事項によって、① 行政はいかなる行為規範を負うのか、② その正当化論理はなにか、③ そのような行為規範の履践をいかにして担保するのか、という三点に関する分析を引き続き行い、連載論文として公表した。 以上の分析により、まず、行政に対する取消判決の既判事項の権威を法的に基礎づけてきたのは、適法性の原理のロジックであることが明らかになった(②)。その鍵は、行政の従うべき法(droit)は、法律(loi)だけでなく、既判事項をも含むという法の実質的理解にある。フランス越権訴訟を特徴づけてきた適法性の原理は、原告適格や訴訟物の局面だけでなく、判決の執行の局面をも強く規定し続けている。このような理論構成は、ドイツ法に範をとる日本で論じられることの多い実体法的構成とは異なる訴訟法的構成でありながら、結果的に私人の権利救済を実現している点で、注目に値する。 上記のような理論的基礎のもとで導かれた行為規範は、既判事項の権威に反する行為をしてはならない不作為義務、判決の執行としての積極的措置を実施し原状回復を行う作為義務、これらの義務を免除する立法の禁止の三類型に整理することができる(①)。 フランス法の特質は、これらの行為規範を現実に確保するためのオペレーションにも表れており、その中核を担うのはコンセイユ・デタである(③)。すなわち、争訟裁断機関としてコンセイユ・デタ争訟部による裁判的統制が行われてきた一方で、その陰では、監視ないし諮問機関としてコンセイユ・デタ調査部による対話と調整に基づく解決が、実に半世紀以上、法制度の裏付けをもって試み続けられていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連載論文を完結させることができたが、想定より長期間を要したため、もうひとつの論文公表に向けての準備を十分に進めることができなかった。もっとも、別稿執筆に際し、関連するフランス法の研究として、極めて重要な博士論文の公刊を待って、検討を深めることが可能となったため、研究はおおむね順調にすすんでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
連載論文では、十分に検討を進められなかった判例法と法律概念の位相につき、考察をすすめる。 具体的には、近時のフランス都市計画法典の改正と判例法の連関について、行政行為を取り消す者としての裁判官、法令を解釈する者としての裁判官、この二つの裁判官の職責(office)の変化を手掛かりに検討を加え、論文として公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、学会の延期やオンラインでの実施へと変更され、旅費の支出が全くなかったため、また、掲載順の関係等により、連載論文の完結に予定より時間がかかり、別稿論文の執筆に必要な図書の購入が完了しなかったため。
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