研究課題/領域番号 |
19K23214
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
原口 健太郎 西南学院大学, 商学部, 准教授 (40846523)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 公会計 / 地方債 / 意思決定有用性 / スプレッド |
研究実績の概要 |
本研究では,我が国において2017年度決算から本格導入された統一的基準に基づく公会計財務諸表導入の意義検証を目的として,公会計財務諸表の対国債スプレッドに対する寄与の調査を行った。分析にあたっては,2019年4月から9月までの各月末時点を対象とし,総務省が2019年3月に公開したデータベース「統一的基準に基づく公会計の情報」と,ロンドン証券取引所FTSEグループのイールドブック社が提供する債券分析ソフト「イールドブック」から得られた地方債の10,000を超える銘柄データを用いた。分析手法には,既存指標・公会計指標から主成分を抽出し,当該主成分を説明変数として対国債スプレッドを被説明変数とする回帰分析(主成分回帰分析)を採用した。 分析の結果,次のことが明らかになった。第1に,2019年6月以降,ストックベースの主成分であるPC1は,対国債スプレッドに対して有意に寄与する。PC1にはストックベースの公会計指標であるNARが含まれており,公会計指標を除いた場合はモデルの説明力が低下することから,この結果は,公会計指標が対国債スプレッドに対して有意に寄与する可能性を示すものである。わが国における公会計財務諸表と地方債の金利情報を分析した研究はこれまでなされておらず,本報告の結果は,統一的基準導入の意義確立にあたって重要な役割を果たすものであるとともに,従来わが国で論じられてきた「暗黙の政府保証論」の将来的な議論にも寄与し得るものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り,データベースの選定及びベンチマーク指標の選定等を行い,1年間で2回の学会報告及び1報の論文公刊を行ったことから,研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり,本研究は,公会計情報が地方債市場に与える影響の可能性を明らかにしたものであるが,統一的基準導入による公会計情報が1年間しか手に入らなかったこと等により,意思決定有用性自体の検証には至っていない。また,地方債市場の研究は先行研究が少ないため,学会で合意が得られた統計モデルが確立されていないことから,実証分析にあたってはより一層の分析手法の改良も必要とされる。 これらの課題を踏まえ,今後の研究推進にあたっては,さらなるデータ収集や実証モデルの改良を行うことにより,公会計が地方債市場において果たす役割についてより明確な検証を加えていく。 具体的には,2020年以降に公表された公会計データを用いて時系列分析を行ったり,ファイナンス・財政学等の他分野の研究者の協力を得て,実証モデルの改良に取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響により,2020年度に予定していた学会出張や調査研究出張を延期したことにより次年度使用額が生じたもの。
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