研究実績の概要 |
本プロジェクトは、不完全情報下において、経済の長期的な定常状態に関する情報が逐次的にしか蓄積されない場合の経済主体の行動をモデル化し、マクロ経済変動(特にインフレ率の変動)の要因解明に取り組むことを目指している。令和2年度(2020年度)における主な研究実績は以下の通り。 まず、「独占度・集中度が高い産業ほどインフレ率の慣性が高まる」ことを発見した理論・実証研究については、令和元年度に執筆したドラフトに対する学会発表でのコメントを反映し、"Sectoral inflation persistence, market concentration, and imperfect common knowledge," Economic and Social Research Institute (ESRI), Discussion Paper No. 359(奥田達志氏・敦賀貴之氏との共著)として対外公表した。同論文はその後、国際学術誌へ投稿し査読者から改訂の要請を受けたため、現在、追加的な分析と論文改訂作業を行っている(研究論文1)。 並行して、令和元年度に構築した長期的なインフレ率(いわゆるトレンド・インフレ率)が確率的に変動することを許容した動学的一般均衡モデルの推計を進めた。具体的には、このモデルを日本の長期時系列データに適用し、トレンドインフレ率の下方シフトが「レジーム・チェンジ」として統計的に検出されるかどうかを調べるため、推計プログラム(Rationality In Switching Environments: RISE)をカスタマイズして適用し、ベンチマークとなる推計結果を得た。現在は、ベンチマーク推計結果の頑健性のチェックや、拡張したモデルの推計を続行している(研究論文2)。
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