研究課題/領域番号 |
19K23232
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
蓮見 亮 武蔵大学, 経済学部, 准教授 (90847526)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 動学的一般均衡モデル / 平均場ゲーム |
研究実績の概要 |
マクロ経済の政策分析に用いられる動学的一般均衡モデルでは、計算可能性の担保のため、代表的家計・企業のような経済主体に関する強い仮定をおき、その異質性とそれによる生じる保有資産といった状態変数の分布を考慮しないことが多い。これに対し、近年、連続時間の平均場ゲームの枠組みでモデルを構築することにより、比較的容易かつ効率的に分布を考慮した均衡の計算ができることが知られるようになった。本研究は、この枠組みを利用してより現実に即したモデルを構築し、政策分析等を行うことを1つの目的としている。 今年度は、第1に、“Comparing the earned income tax credit and universal basic income in a heterogeneous agent model.”という表題のディスカッションペーパーを公表した。本稿では、米国やイギリスで導入されている給付付き税額控除や政策手段として注目を集めているベーシックインカムが経済規模や所得格差に与える影響を分析した。パラメータは米国の資産分布、所得分布を再現するようキャリブレーションしてある。どちらの政策変更も低所得世帯の労働参加を促し、消費等価によって測定される社会厚生を改善する。一方で、予備的貯蓄が抑制され資本ストックが減少するため、生産は減少する。さらに、再分配によって所得の分散が低下し、追加的な資産を保有することによる限界的な価値の増加が消費や貯蓄と同様に平準化するため、資産保有の不平等が拡大する可能性がある。 第2に、上記のモデルをベースとした、労働市場におけるサーチ・マッチングを考慮したモデルを構築し、分配政策がマクロ経済全体と個人の格差にどのような影響を与えるかの分析を行なっている。今後、成果をとりまとめて論文として公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヘテロジニアス・エージェントモデルをベースとした動学的一般的均衡モデルを構築し、従来の代表的家計という仮定の下では分析できなかった政策分析を行うという本研究の目的は、ディスカッションペーパー“Comparing the earned income tax credit and universal basic income in a heterogeneous agent model.”の執筆・公表により一定の水準で達成した。 さらに、上記のモデルをベースとして、労働市場におけるサーチ・マッチング理論を織り込んだモデルを構築し、数値計算によるシミュレーションを行っている。現在はその成果を取りまとめ、有識者からコメントを得るため研究会等で発表する準備をしている段階である。 これらの理論面での整理として、ワーキング・ペーパー「連続時間動学的一般均衡モデルに関する研究ノート」を執筆・公表したが、記述を不確実性のないモデルの範囲に留め、不確実性をモデルに導入した場合、さらにヘテロジニアス・エージェントモデル(平均場ゲーム)に拡張した場合についての記述までには及んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
ディスカッションペーパー“Comparing the earned income tax credit and universal basic income in a heterogeneous agent model.”は修正の上の学術誌に投稿し採択を目指す。労働市場におけるサーチ・マッチング理論を織り込んだヘテロジニアス・エージェントモデルの構築とそれを用いた政策分析については、研究会等で有識者からコメント得るとともにワーキングペーパーとして取りまとめ、公表することを目指す。連続時間動学的一般均衡モデルへの不確実性の導入、平均場ゲームモデルへの拡張に関する理論面での整理についても可能であれば行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の流行に伴い国内外出張が困難な状態が継続したため、次年度使用額が生じた。今後、主として、成果公表のため、論文校閲料、投稿料および学会出張旅費等に充てる予定である。
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