先進国やドナーが途上国で実施する開発実践の現場のアクターやニーズが多様化しており,地元住民の社会的背景や現場に即した開発事業の実現がますます重要となっている.また,持続可能な開発実践の実現のためには現地への適合なしにはあり得ない.そこで,開発実践の現場がどのように個々の開発事業を受け止めてこれに反応しているか丁寧に調査・分析する必要がある.本研究は途上国での日本の開発実践の現場(とくに住民参加型による農道整備事業を対象とする)で長期のフィールドワークを行い,開発実践の前後で,在来の知識や技能,技術の伝達や在来の社会組織の活用と再編について参与観察と聞き取り調査を実施し,現場の地元住民の反応について研究する計画としていた.感染症拡大の影響で現地渡航が制限されたため,フィールドワークの期間は想定より短くなったが,現地で構築した人脈や組織的なネットワークを活用し,遠隔でも調査を継続することで成果を出すことに努めた. 本研究の初年度には,エチオピア共和国のアジスアベバ及びジンカに渡航し,研究体制の構築と予備調査を実施した.同国で開発実践にたずさわる行政組織の関係者や農村部の住民を対象に,現地の道路整備事業や道路災害に関する聞き取り調査を実施した.次年度には,感染症拡大のために現地渡航が実現できなかったが,それまでに得られたデータをもとに機関誌での報告や,論文の投稿と公刊を行った.感染症が収束せず,本研究を一年延長したが,最終年度も渡航制限の影響を受けた.それまでに構築した人間関係をもとに現地の研究者や住民に協力を仰ぎ,データ収集に努めて,その成果を含めて複数の国内の学会や研究会にて研究報告を実施した.
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