本研究の目的は、ユニバーサルツーリズムに取り組む地域事業を対象に従来のユニバーサルツーリズムの定義について再考し、同ツーリズムを通じた包摂的かつ持続可能な地域形成の条件を提示することである。同ツーリズムでは、障害者や高齢者、訪日外国人などいわゆる観光弱者とよばれる人々が社会的支援の対象とされている。しかし、本研究における調査対象地域では、それらの観光弱者と呼ばれる人々が観光事業の主体として地域振興に携わり、支え手として持続可能な地域形成に貢献している。それを可能にする諸条件を実態調査から明らかにし、持続的かつ包摂的な地域形成に必要な条件の一般化を試みた。 2020年度については、国内調査対象3か所の内、2か所については実施できたものの、コロナ禍の影響もあり1か所(北海道ニセコ町)については調査環境が十分整わなかったことから実施できなかった。また、同様の理由により海外調査(デンマーク)についても本調査を実施することができなかった。 本研究全体を通じて明らかになったことは、当事者の主体性を重視する観光弱者支援のあり方が当事者や支援者らと行政や地域の事業者、地域住民との協働関係を構築し、地域の観光事業や地域産業の持続性を高めることにつながるという実態であった。このことは、従来の社会的弱者と支援する社会の側との「支える-支えられる」という二項関係を「相互扶助の関係性」と捉え直すことが、持続的かつ包摂的な地域形成につながることを示している。 これらの調査結果から、従来のユニバーサルツーリズムの定義における主体間の関係性を観光弱者支援を前提としつつ、相互扶助的な関係性として再考することで観光と福祉の連携(観-福連携)による持続的かつ包摂的な観光地形成に寄与する可能性があることが分かった。今後は、未調査の実施を含め、それを可能にする社会的な背景を明らかにし、それらの諸条件を析出する。
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