本研究は、非正規教員の増加/不足の事態に鑑み、なぜ教員供給は失敗したのかという教員人事行政の観点から、非正規教員の任用実態とそこに見られる特質を明らかにすることを目的としてきた。 非正規教員の任用実態は依然として明らかになっているとは言えない状況である。そのため、福岡県を事例として選定し、非正規教員の任用実態の一端を明らかにする作業を展開した。教員不足を解消する手段の一つとして非正規教員が任用されているだけでなく、非正規教員の不足に伴い、事実上の「無資格者」へ臨時免許状を授与することでその不足を補っていることが浮かび上がった。臨時免許状の授与=助教諭の任用が拡大することは、教職の専門職性に大きな影響を及ぼすため、非正規教員問題は労働問題にとどまらず教職それ自体の存在意義を問うている。教職の役割について検討を重ねてきた。 それと関わり、そもそも非正規教員の任用はなぜ拡大してきたのか、その歴史的な経緯を80年代から紐解く作業も展開した。「教師とは異なる専門性」を期待して外部人材=大学における教員養成を経ていない者へ免許状を授与することを可能にした諸制度(特別免許状制度や特別非常勤講師制度)が、一つのトリガーとして教職の専門職性に揺らぎを与えたのではないかとの立場から考察を進めてきた。すなわち、90-00年代における新自由主義的教育改革の影響だけでなく、80年代以降から積み重ねられてきた教職観の変容の影響も受け、非正規教員の任用が正当化された可能性を論じた。 しかしながら、非正規教員の任用は80年代以前から存在していたことを踏まえると、さらに歴史を遡って検討を進める必要があることも明らかになった。今後の研究課題となる。
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