研究課題/領域番号 |
19K23575
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 啓 大阪大学, 接合科学研究所, 助教 (00842577)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 摩擦攪拌プロセス / ツール摩耗 / 表面合金化 / 鉄鋼材料 / メカニカルアロイング |
研究実績の概要 |
2019年度の研究では,摩擦攪拌プロセス(FSP)におけるWCツールの摩耗挙動に及ぼす回転速度と走行距離の影響について明らかにするとともに,その摩耗量と被施工材である低炭素鋼板へのW及びCの供給量や供給範囲の関係について調査することを目的として,1パス100 mm毎のツール形状と鋼板断面組織の変化を追跡した.さらに,鋼中のツール構成元素供給部における強化機構に検討を加えるとともに,それら元素がWCツール表面から分解して鋼中に供給される機構について解明することを目的として,施工中のツールの走行と回転を急停止させるストップアクション法と水急冷を同時に適用することで作製した凍結組織におけるWC/鋼界面組織の詳細な観察を行った.FSP施工可能な範囲において,WCツールの摩耗量は回転速度及び走行距離の増加に伴って増加した.このとき,ツールはある一定距離走行した段階から著しい摩耗を生じており,その段階に遷移するまでの距離は回転速度の大きな条件ほど短く,ツールの破損も早期に生じた.また,走行距離の増加に伴いツール形状が変化したことで,鋼側との接触面積の増加によっても摩擦熱が増大し,ツール摩耗が促進されていることが示唆された.この回転速度や摩擦面積(走行距離)等の因子によって決定されるFSP入熱量の増大は,WCツール/鋼界面での反応を促進し,そこに形成される化合物層Fe4W2Cが,ツールの摩耗量と鋼中へのW及びCの供給量を支配している可能性が推察された.そして,Fe4W2Cを介して鋼(オーステナイト)側へ供給されたWは,その後のマルテンサイト変態によってCとともにa-Fe中に過飽和固溶され,両元素の固溶量に依存した著しい表面硬さの増大に寄与していることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,予定通りWCツールのみに着目し,低炭素鋼表面へのW,C両元素の供給機構ならびにそれによる強化機構について明らかにできた.また,ストップアクション法+水急冷による凍結試料や,熱処理を活用した標準試料の作製等の実験的手法が確立されたことで,異なる種類のツールや鋼材を用いる2020年度の研究もスムーズに着手できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
WCツールの摩耗を伴った低炭素鋼板へのFSPにおいて,WとCの両元素がFe基地中に過飽和固溶され,著しい表面硬さの増加に寄与していることを明らかとした.これは,FSPによる温度上昇によってフェライト+パーライトから変態したオーステナイトにWとCが供給され,その後の冷却過程でマルテンサイト変態したことにより,α-Fe中への固溶限がほぼ0の両元素が化合物の生成なしに固溶したことを意味している.このWとCの過飽和固溶マルテンサイトは,Cのみが同程度過飽和固溶した通常のマルテンサイトよりも高硬度であり,侵入型C原子による格子歪みに加えて,W原子によるそれが硬さの増加にどれほどの寄与率があるのか,また両者の寄与率には単純な加算則が成立するのか否かといった点が,これから行う研究の興味である.両元素による硬さ増加には,オーステナイト→マルテンサイト変態が不可欠であることを証明するため,これから行う研究では,FSP中も相変態しないオーステナイト系ステンレス鋼SUS304とフェライト系ステンレス鋼SUS430におけるW及びC供給の影響を調査・比較したい.同時に,ツール材料を変化させ(例えばSi3N4ツール),軽元素であるSiやNの固溶による機械的性質への影響についても調査する.CやNなどはステンレス鋼中のCrと反応することでCr炭窒化物を形成し,固溶強化以外の強化機構を発現する可能性もあるが,これら材料強度を支配する組織的因子を整理することで,各鋼種におけるツール構成元素の強化能について議論することを目指す.
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