研究実績の概要 |
本研究は灌流型の三次元デバイスシステムを用いたティッシュエンジニアリング技術により、in vitroで構造を制御し、秩序あるヒト大脳組織を構築することを目的としている。昨年度は、従来のオルガノイド作製技術を用いて、ヒト多能性幹細胞から大脳組織への誘導方法を確立した。今年度は、三次元デバイスに充填したハイドロゲル内で大脳組織を誘導し、培養液を灌流させることで、大脳組織の成熟化を行うことを計画していた。大脳組織の構築に向け、下記2点について検証を行った。 ①ハイドロゲル内での神経細胞の培養における条件検討:灌流型三次元デバイスシステムに充填するハイドロゲルとして、コラーゲンとマトリゲルの混合ゲルを用いた。そのため、ヒトiPS細胞由来の神経細胞を用いて細胞の維持及び分化誘導に適切な、混合ゲル比の条件検討を行った。また、ゲル内培養における最適な細胞濃度についても条件検討を行った。 ②灌流型の三次元デバイスシステムを用いた大脳組織の作製:これまでに、皮膚や肝臓の組織モデルの作製に用いられた三次元デバイス(Mori, N., et al., Sci. Rep., 2020) による、大脳組織の作製を試みた。細胞をハイドロゲルで懸濁し、三次元デバイス内に充填し、シリンジ針をゲル内に貫通させることで、空洞の流路を形成させた。これにより、ゲル内の空洞に培養液を灌流することができる。最適化した混合ゲル比と細胞濃度でヒト多能性幹細胞をデバイス内に充填し、シリンジポンプを用いて培養液を灌流させながら、大脳組織への分化培養を行った。しかし、ゲルの収縮や流路の縮小により三次元デバイスシステムを用いた長期間の培養は課題が多く、デバイス内でのヒト多能性幹細胞から層構造を持つ大脳組織への誘導は困難だった。そのため、長期培養を可能にする新たなデバイスの設計や分化した神経細胞を充填するなど、現在検討を続けている。
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