食品は,その原材料の収穫後,輸送機関を用いて倉庫,加工工場などに貯蔵や輸送され最終的に消費者に届けられる。食品の貯蔵・流通中に害虫が混入した場合,さらなる被害を予防するために侵入時期や死亡時期の推定が必要である.本課題は,食品害虫の(1)形態変化プロファイル,(2)核酸の残存量による侵入・死亡時期の2点について実験を行い,侵入・死亡時期の推定を目指すものである。研究実施期間を通して得られた成果を以下に示す:(1)流通過程中の衝撃を落下試験機で再現し,落下した箱の中で押しつぶされた際に生じるコクゾウムシSitophilus zeamais,コクヌストモドキTribolium castaneumの破損を評価した.落下衝撃後の破損指標として,破片と虫体に生じたき裂を解析した。落下高さと破片数,または落下高さとき裂には正の相関が確認された。破片数およびき裂が衝撃履歴を示す指標としての有用性が示唆された。害虫の破損状況から害虫が受けた衝撃の履歴を引き出せれば,混入時期や場所の特定につながる可能性がある.(2)通常生物が死ぬと核内に存在するRNAは,分解酵素の働きによって,また分子そのものの安定性の喪失により分解することが知られている。貯穀害虫であるコクヌストモドキを用い,死後徐々に分解する遺伝子を定量した。食品の加工過程で想定される,加熱や低温などの死亡条件についても検討を行い,死亡条件によって遺伝子の分解程度が異なることを確認した。
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