データマイニングの代表的な手法の一つである決定木(decision tree;DT)モデルの利用により、複数の要因の組み合わせによる相互関係を考慮したイベントの発現割合を推定可能である。本研究では、より臨床で活用可能なモデル構築を目的に、多施設共同でバンコマイシン(vancomycin;VCM)による腎機能障害のリスク推定モデルの構築を試みた。 今年度は、協力医療機関(北海道内 4施設)における診療情報収集とデータ解析を実施した。 収集した症例数は1733例であった。目標である2000例には到達しなかったものの、研究の遂行に十分な症例数を確保することができた。VCMによる腎機能障害の判定はKidney disease: Improving global outcomesの基準を用いた。対象患者のうち、クレアチニンクリアランスに応じた標準的な投与法(Thomson AH et al. 2009)でVCMが投与された843例(腎機能障害発現例は115例)にDT解析を実施し、VCM開始時に使用することを想定した腎機能障害の発現予測モデルを構築した。構築されたDTモデルには腎機能障害発現に関連する因子として、昇圧剤併用、タゾバクタム・ピペラシリン併用、Body Mass Index 30以上が抽出され、これら因子の有無をチェックすることで、腎機能障害の発現リスクを簡便に推定可能なモデルが構築された。本モデルの予測精度は86.4%であり、既報と比較し良好であった。 さらに、年度終盤には新たな試みとして「DT解析を医療ビッグデータに適応」することに挑み、ダプトマイシンによる骨格筋障害のリスク推定モデルを構築した。 DT解析を用いたアプローチは他の薬剤や副作用に広く応用可能である。本研究で見出された知見は、より一般化可能な副作用発現リスク推定モデルの構築に向けた基盤となることが期待される。
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