研究課題
汎用性、安全性の高い高効率なゲノム編集ツールは、様々なライフサイエンス分野の基礎研究・応用研究両面に必要不可欠な技術である。これまでに大腸菌由来CRISPR-Cas3が真核細胞のゲノム編集に利用できることを見出した。CRISPR-Cas3を社会実装できるゲノム編集ツールとして確立するためには、安全性や効率などを正確に評価する必要があるが、CRISPR-Cas3の標的特異性を正確に評価できる解析手法は確立されていない。本課題研究では、スイス連邦工科大学のJacob Corn教授らと共に、CRISPR-Cas3の生体内ゲノム編集における正確な評価システムの開発を目指している。昨年度11月から当該年度10月までの1年間、スイス連邦工科大学に滞在し研究を実施した。CRISPR-Cas3でゲノム編集したヒト培養細胞に対して、DNA修復関連因子Mre11に対する抗体を用いてChip-seqを行った結果、CRISPR-Cas3の標的配列部位で特定のDNA修復因子が集積することが明らかになった。一方で、集積具合はCas9と大きく異なり、Cas3ではDNA修復経路が異なる可能性が示唆された。現在、複数の標的および時間軸での集積具合を検討しており、正確に本Chip-seq法によりオンおよびオフターゲットを検出できる実験系として最適化することを目指しておる。最終的に、マウスを用いた生体内ゲノム編集における評価系として確立する。本法によりCRISPR-Cas3の高効率かつ高安全性を持ったゲノム編集が可能であることを実証することで、産業応用やゲノム編集治療などへの活用を踏まえた独自性の高いゲノム編集ツールとして確立できることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、DNA修復因子を利用したin vivoゲノム編集評価法を開発し、CRISPR-Cas3が汎用性および安全性の高いゲノム編集ツールであることを実証することである。当該年度は、スイスに渡航し、CRISPR-Cas3でゲノム編集したヒト培養細胞に対して、DNA修復関連因子Mre11に対する抗体を用いてChip-seqを行った。その結果、CRISPR-Cas9と同様にCRISPR-Cas3でも標的配列付近のDNAに集積していることが明らかとなり、Chipによって変異導入部位を検出できることが明らかになった。一方で、そのピークの形状はCas9と異なっており、DNA修復経路の違いが示唆された。またいくつかの時間軸で検討した結果、Cas9と異なり、DNAとの相互作用に時間がかかることが示唆された。現在こうしたCas3の特徴を生かしたオンオフターゲットの検索法を検討中であり、概ね計画通り進行している。今後の実験動物を用いたin vivo評価に向けても準備を整えている。
異なる標的配列、特にオフターゲットが生じる可能性が高い標的を念頭に、継続したChip-seq解析を行い、全ゲノム中でのオンおよびオフターゲットへの効果を検討する。最終的には、得られた結果からオフターゲットになり易い配列を予測できる新しい予測プログラムを開発し、世界中のユーザーが利用可能なwebツール化を目指す。またin vivoゲノム編集時のオフターゲット評価を行うため、CRISPR-Cas3導入マウスを作製中である。最終的にin vivoでのゲノム編集効率、オフターゲット効果を検討することで、遺伝子治療に向けて有用なツールであることを示す。
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