肝様腺癌 (hepatoid adenocarcinoma) は、肝臓以外の組織に発生するが、形態的及び機能的には肝細胞癌と腺癌の特徴を併せ持つ比較的稀な腺癌の特殊型である。胃、膵臓、肺、子宮など様々な諸臓器での発生が報告されているが、胃は肝様腺癌の最好発部位で、我が国では胃癌全体の数%程度で認められ、欧米諸国と比較して頻度が高いことが知られている。初年度は、外科的切除された、胃原発の肝様腺癌に関して症例を収集し、免疫染色も含めて臨床病理学的特徴の解析を開始した。胃癌の組織型の中でも、悪性度の高い肝様腺癌の研究は、非常にcompetitiveであり、本研究の施行中に遺伝子変異を解明した論文が複数報告された。これらの報告は腺癌で一般的なドライバー遺伝子変異の同定に留まっているものの、段階的に解明が進んでいることが明らかとなった。本研究課題の核心である『高悪性度につながる肝細胞様形質の獲得に必要な遺伝的素因は何か?』『肝様腺癌と肝細胞癌・通常型胃癌の違いは何か?』という2つの問いは依然として未解明であるが、ドライバー遺伝子変異の同定のみでは、これらの問いへの解決に至らない可能性が高い点を加味し、RNA-sequencingやclonal evolutionを含めた実験系へ再構築することを検討している。最終的には、胃にとどまらず、他の諸臓器の肝様腺癌においても類似した発癌メカニズムが働いていることが確認できれば、横断的な疾患概念に結びつくものと考えられる。更に病理診断の基盤構築への一助となる可能性が考えられる。
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