アジアとヨーロッパを結ぶシルクロードの中間に位置するガンダーラは、諸文化が衝突と融合とを繰り返した東西文化交流の要衝であった。インドから伝来した仏教もこの地で変容発展し、東アジアにまで多大な影響を与えた。ガンダーラを巡っては膨大な研究の蓄積はあるものの、考古学的発掘は不十分で、多くのガンダーラ彫刻が流出し、ガンダーラの全体像を把握しうる網羅的研究はいまだみない。さらに近年では浮彫彫刻のみならず経典資料や刻文も発掘・発見され、改めて国内外の遺物を再調査する必要がある。 こうした状況下で本研究は(1)「ガンダーラ美術の資料集成」と(2)「ガンダーラ美術の統合的研究」という2つの目的を持ち、ガンダーラ美術の総合的なデータベースを構築するとともに、美術史学、考古学、歴史学、仏教学、仏教史学を結ぶ視点からガンダーラを捉え直す新たな研究を目指す。 (1)ガンダーラ美術の資料集成 パキスタン、インド、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの博物館・美術館・寺院・個人などに所蔵され、散在するガンダーラ美術の実地調査を行う。調査後にはすみやかに協力者の協力のもとにデータベースの作成を行う。併せて過去に行われた研究代表者・分担者の調査により集積されたデータの集成も行う。 (2)ガンダーラ美術の統合的研究 研究分担者によって、以下の5つの側面から研究を進める。(1)考古学と文献を合わせたかたちでの歴史、(2)モティーフ・図像・守護神などの比較研究-ギリシア・ローマ、イラン、インド、中央アジアとの比較-、(3)図像解釈論、(4)ガンダーラの仏教信仰-僧団と在俗信者との関わり-、(5)ガンダーラ仏教美術の影響(インド・東南アジアへ、中央アジア・東アジアへ)である。上記の多角的な学際的研究によって、ガンダーラ美術の諸相のみならず、ガンダーラ地域社会における宗教・文化のあり方をより明確に提示する。
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