本年度においては、7月、9月、12月の3回にわたり、それぞれ筑波大学、共享女子大学、東京大学において連携研究者とともに研究会を実施した。7月の研究会においては、まず若手研究者宮本啓子氏(早稲田大学文学研究科博士後期課程)の話題提供により、岸田国士作品「風俗批評」における演劇と観客の関係性の問題を取り上げ、また連携研究者日比嘉高による戦前期の外地書店について、流通と読者という視点から問題提起があり、活発な意見交換を行うことができた。 9月の研究会では演劇の受容について二人の連携研究者から話題提供を得た。大林のり子は1924年アメリカ・ニューヨークで上演されたマックス・ラインハルト演出「奇蹟」の海外公演にともなう興行的な戦略について議論し、また同じく阿部由香子は築地小劇場地方公演の記録にみえる観客や後援組織に着目して、その意義について報告した。 12月の最後の研究会においても連携研究者による話題提供を受けた。川崎賢子は戦後のGHQのメディア政策について、とくに演劇上演への関与について地方で異なる検閲の実態等について検証し、また、木下直之は明治期に浅草の油絵茶屋で展示された下岡蓮丈「台湾戦争図」をめぐる複雑な問題系を議論の俎上に載せ、意見交換が活性化した。 本研究は美術史研究者が主力となっているが、最終年度において、美術に限らず、演劇や文学について、これまでの研究成果をまとめるような連携研究者の報告があった。研究成果の一部は報告書として年度内に公表した。
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