研究概要 |
マントルと地殻とのオスミウム(Os)同位体比のコントラストは非常に大きいため,島弧火山岩のOs同位体は沈み込むスラブからの物質のリサイクルを検証するトレーサーとして非常に有効である。しかしながら,マグマ上昇過程での地殻物質の同化作用によって初生マグマのOs同位体はマスクされてしまう可能性を排除できず,2004年を境に島弧火山岩のOs同位体の報告は影を潜めた。本研究では日本列島とその周辺の島弧火山岩から,マグマの分別過程の初期に結晶化し,Osが濃集するクロマイトを浜砂からあるいは火山岩自身から分離し,そのOs同位体を分析することで,始源的島弧マグマのOs同位体組成を決める。クロマイトと全岩のOs同位体比を比較し,スラブ物質からのOsと地殻の同化によるOsを明確にし,それをコントロールする要素を明らかにすることを目的とする。具体的に得られた成果は次の通りである。この成果は,Geology誌に公表され,同誌の注目論文として取り上げられた。小笠原諸島で採取した浜砂から分離したクロマイトのOs同位体から,ボニナイトには沈み込むスラブのOsの寄与が無いことが明らかになった。これは,沈み込みの開始間もない環境下,ウェッジマントルは酸化的な沈み込み物質の影響を受けず,還元的な環境を保っていたためにOsが沈み込むスラブから移動しなかったことを示す。一方,ソレアイトで構成される向島の浜砂のクロマイトは,高い同位体比を示し,明らかにスラブからのOsの寄与が認められた。これは,沈み込みが続いて,ウェッジマントルが徐々に酸化され,Osが移動するのに十分な酸化度であったことを示唆する。沈み込み帯のマントルの酸化還元度は,論文の発表が相次ぐホットなテーマである。本研究の結果は,ウェッジマントルの酸化度の変化を制約した成果として注目された。.
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