本研究は旧ソ連圏のうち中央アジア諸国に焦点をあて、新国家樹立以降の各国の教育戦略を総合的に解明し比較研究しようとするものである。最終年にあたる本年はこれまでの中央アジア4カ国の調査研究結果を比較検討し、ユニークな教育改革を実施しているウズベキスタンとカザフスタンの2カ国に焦点を絞り、実態をさらに詳しく検証するため現地調査を実施した。各国ほぼ共通してみられるのは、脱社会主義であり、教育サービス市場への競争的環境の導入、受益者負担の原理の導入である。他方、イスラム圏でありながら、ジェンダー・バランスの点で大きな問題は見られない点、世俗制原則が掲げられている点などはソ連時代の遺産とみられる。多民族国家であり教授言語への柔軟な対応、ロシア語の占める大きな位置も共通してみられる点である。カザフスタンでは国家語(カザフ語)、ロシア語と英語の三言語能力を育成する課題を設定しており、これらの三言語を初等中等教育段階から教授言語として導入する政策に着手していることが注目される。ウズベキスタンで注目されるのは、一貫した生涯教育制度の確立を図り1.12年制義務無償教育を導入し、2.欧州のボローニャ・プロセスに対応した高等教育改革(4年制バカラブル課程+2年制マギストル課程)を実施し、3.高等後教育、再教育制度を刷新した点である。ボローニャ・プロセス対応はカザフスタン、クルグズでも共通に見られるが、12年制義務教育実施は唯一である。9年間の共通教育の後に、3年制の普通高校と職業高校に1対9の比率で進学させる制度であり、国家・地域の人材需要を考慮し、失業者をださないための定員枠であるという。生徒の能力・適性を見極めるキャリア教育が重視され工夫されている。12年制義務教育への多大な経費支出は高等教育への支出を減少させ、ソ連時代の無償制原則は大幅に後退している。
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